労使トラブル110番
駐車禁止の罰金は会社が支払うのか、従業員が支払うのか?
Q
従業員が駐車禁止のところに会社の車を停めていて罰金をとられることになりました。
いままで罰金を会社が支払っていたのですが、あまりにも多いので今後は従業員本人の負担にしたいと思います。
可能でしょうか。
A
労働者の損害賠償責任の考え方
労働者が業務を遂行する途上で使用者に損害を与えた場合、どのような考え方で臨む必要があるのか、その法律的考え方をまず整理してみましょう。
① 労働者が労働義務又はその付随的義務に違反して使用者に損害を与えた場合、債務不履行に基づく損害賠償責任、労働者の行為が不法行為であった場合は不法行為に基づく損害賠償責任を法律上免れることはできません。
さらに、労働者の行為によって第三者に損害を及ぼしたときは、使用者責任を前提にして、使用者は労働者に求償権(使用者が果たした賠償額を労働者に請求すること)が認められています。
② 一方、裁判例は、労働契約の特質(使用者の指揮命令下の労働者の労働により使用者が経済的利益を得ている)を考慮して、信義則に基づく責任制限法理を形成してきました。
すなわち、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」においてのみ、労働者に対して損害の賠償又は求償の請求をすることができるという考え方です。
③ 使用者と労働者がどのような割合で賠償額を分担するのかの判断基準は、
「労働者の帰責性(故意・過失の有無・程度)」、
「労働者の地位・職務内容・労働条件」、
「損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等)」
によって求められるとされています。
具体的には、労働者に注意義務違反はあるものの重大な過失までは認められないケースでは、その他の事情(使用者によるリスク管理の不十分さ等)を考慮して使用者による賠償請求を棄却しています。
他方、背任など悪質な不正行為や社会通念上相当な範囲を超える行為があった場合は、全額労働者の責任としているなどです。
したがって、上記の判断基準を考慮しながら、ケースバイケースで判断されなければならないということです。
交通法規を守るのはドライバーの責任
業務上の車の運転でも、重大な過失がない事故により第三者に損害を与えた場合や自損事故に遭った場合などは責任制限法理により労働者に全額損害賠償したり、求償権を行使することはできないでしょう。
しかし、一般に、信号や制限速度を守る等の交通法規に基づき運転するのはドライバーが当然に責任を負うものと言えます。
駐車禁止地域に車を駐停車させないのも当然です。
したがって、駐車禁止の罰金を全額会社が支払う義務もありません。
前例を変更するためには
もう一つ検討しなければならないのは、貴社ではいままで駐車禁止の罰金は会社が支払ってきたという前例があることです。
労働者もいままでの会社の措置を当然のものと受け止め、会社に請求しているのではないでしょうか。
そうした前例を変更するためには、その旨の通知を行う必要があります。
従業員の誰もが見える形で、「今後は交通法規に違反した場合の罰金は従来の扱いを変更し本人負担とします。
会社の車を使用した業務を遂行する際は、必ず交通法規を守るようにしてください」というようなことを張り紙や、一人ひとりに宛てた文書で周知するようにしてください。
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