労使トラブル110番
休職期間満了時に復職できなかった者は、自動退職か解雇か?
Q
弊社の就業規則では、私傷病により休職した者に対して休職制度を設けています。
休職規定では、「休職期間満了時までに復職できなかった場合は解雇する」としています。
最近、解雇の有効性をめぐる裁判が起きてしまったのですが…。
A
休職制度は法律的には「解雇猶予措置」
労働基準法その他労働各法のどこにも休職制度に関する条文は存在しません。
もともと労働契約とは、労働者には労務提供義務を、使用者側には賃金支払義務をそれぞれ有する契約です。
したがって、労働者が私傷病により労務提供義務を履行できない場合、普通解雇の理由となります。
それを一定期間猶予する、その猶予期間に治療等に専念させる制度が休職制度と言えます。
休職制度とは法律的には解雇猶予のための措置と言えます。
解雇猶予している期間になお休職の原因となった事由が消滅しない場合は、労働契約の原則に立ち返って労働契約を解消すること、すなわち退職を議論するべきなのです。
解雇する」という規定は新たな紛争を呼ぶリスク
一部の会社の就業規則では、「(休職期間満了時までに復職できなかったときは)解雇する」としているものがあります。
しかし、「解雇」とした場合、労働基準法20条により30日前の予告手続が必要となり、予告なき場合は予告手当を支払うのかという問題がまずおきます。
また、労働契約法16条によりその解雇が社会通念上相当であるかという議論も正面からなされる可能性も生まれます。
ご相談のケースはそれが裁判にまで発展してしまったようです。
もちろん「自動退職」あるいは「当然退職」という規定にしたからトラブルがなくなるというわけではありませんが、「解雇する」と規定するよりも、そのリスクは低減されることは確実です。
復職基準と復職手続を詳細に決めておくことが大事
さらによりトラブルリスクを低減させるためには、復職基準と復職手続を就業規則で詳細に定めておくことが大事になります。
① 復職基準について
復職とは、私傷病が治癒していることが前提となります。治癒とは、一般に「従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復する」ことを意味します。
その際、休職期間満了時には治癒していないものの、一定期間を経過すれば治癒が見込まれるような状態であるときには柔軟な対応が求められるでしょう。
また、会社規模や職種転換の可能性も考慮して復職させるという判断もあり得ます。
最高裁片山組事件判決では、従前の現場監督業務には就けないものの事務職として復帰できること、一定期間を経過すれば治癒することが見込まれることなどを理由に復職させるべきと判断しています。もちろん小規模会社で柔軟な対応ができない場合や、そもそも職種転換の余地がない場合にまでこのような対応が求められるわけではありません。
② 復職手続について
一般に「医師の診断書の提出を求める」という規定が多いようですが、主治医は必ずしも会社の業務内容等を知っているわけではありませんし、また労働者やその家族の意向に基づき診断書を書く場合も多いと言われています。
したがって、主治医の診断書だけで正確に判断することはできません。
主治医と会社が面談する、その面談に従業員が協力する旨の規定や、会社が指定した医療機関での受診を求める規定も併せてあった方がいいでしょう。
なお、復職の判断は医師が行うものではなく、あくまでも会社が行うものであることは明確にしておく必要があります。
③ 復職のためのシステムがある場合
メンタルの病が理由で休職する場合、一定の復職プランを作り、例えばまず出勤することから始め、徐々に復職できるようにしていくシステムを用意している場合があります。
この場合でも、点数化して「●点以上」を取得しなければ復職できないなど、お互いに疑問の余地のないプランを作ることが望ましいといえます。
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