労使トラブル110番
1年単位変形労働時間制の場合の振替変更が認められる範囲
Q
弊社は1年単位(変形期間1年)の変形労働時間制を採用しています。
業務の都合で、一時的に勤務体系の変更を考えています。
具体的には、カレンダー上就労日としていた日を休日にし、その代わり1日の就労時間を30分ほど長くするような月を作りたいのですが、何か手続きが必要なのでしょうか?
A
任意に労働時間を変更することは変形制に該当しない
1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることが要件となっています。
そして、その労使協定及びカレンダーは労働基準監督署に届け出なければなりません。
したがって、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、変形労働時間制に該当しないものであるとされています。
通達でも、
「貸切観光バス等のように、業務の性質上1日8時間、週40時間を超えて労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、1年単位の変形労働時間制を適用する余地はないものであること。」(平6.5.31基発330号)としています。
もし今後も恒常的にそうした制度にしたいのであれば、あらためて労使協定を結び、カレンダーを作り直し、監督署にも届け出ることが必要でしょう。
そうではなく変形期間の途中に変更したいというのであれば認められませんので、勤務体系の変更は次の変形期間まで待って施行するとしてはどうでしょうか。
1年間の細かい業務見通しができない場合の労使協定の決め方
業種によってはおおよその繁閑の違いを月ごとに分かりはするものの、1年間すべての労働日と労働日ごとの労働時間を見通すことまでが困難な場合があります。
そうした場合、対象期間を1ヵ月以上の期間ごとに区分し、
① 対象期間の初日の属する期間(最初の期間)の労働日及び各労働日ごとの労働時間
② 最初の期間を除く各期間の労働日数及び総労働時間数
を労使協定で特定するやり方が認められています。
ただし、この場合、最初の期間を除く各期間について、各期間の初日の少なくとも30日前に、労使協定の当事者の同意を得て、書面によって、次の事項を定めなければなりません。
① 労使協定で定めた「労働日数を超えない範囲内」 で各期間の労働日
② 労使協定で定めた「総労働時間を超えない範囲内」で労働日ごとの労働時間
勤務日の振替変更が認められる範囲は?
上記のように変形制自体を一部変更させることは認められません。
それでは、特定された勤務日の振替はどこまで認められるのでしょうか?
勤務日の振替変更には2つのケースが想定されます。
(1)1日8時間を超える日と8時間以内の日との変更
例えば1日8時間を超える日とされていた金曜日と、1日8時間以内とされていた水曜日との、臨時的変更のケースです。
この場合でも、所定の勤務表の変更である以上、労使協定で変更の事由と手続が事前に定められており、労働者代表との同意によって行われるのであれば差し支えないとされています。
もちろん「今日4時間残業した代わりに明日4時間短縮する」というような恣意的な随時変更は認められません。
(2)労働日と休日の振替変更
この場合の考え方は、前提として
「通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できない」が、
「予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行わなければならなくなる(こと)までも認めない趣旨ではない」として、次の要件によると通達しています(平9.3.28基発210号、平11.3.31基発168号)。
① 就業規則において休日の振替についての規定を、できる限り具体的事由と振替えるべき日を規定する
② 対象期間(特定期間を除く)においては、連続日数が6日以内となること
③ 特定期間においては、1週間に1日の休日を確保できる範囲内であること
なお、「同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであり、
労働基準法第32条の4第1項に照らし、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働となるものである」(同通達)としている点に留意してください。
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