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ハラスメント調査から浮かび上がる企業の対策のアンバランス
【ハラスメントは増え続けている】
オフィス・サポートNEWS6月号で「平成28年度個別労働紛争帰結制度施行状況」の結果を取り上げました。そこでは、民事上の個別労働紛争相談件数255,460件のうち「いじめ・嫌がらせ」が70,917件で22.8%とトップで、「解雇」(11.8%)の倍近い数となっています。
一方、「平成28年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」によれば、男女雇用機会均等法に関する相談21,050件のうち、セクハラ相談が最も多く7,526件(35.8%)。次いで「婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」が5,933件(28.2%)で、これに「妊娠・出産等に関するハラスメント」(マタハラ)を合わせると、7,344件で全体の34.9%を占めることになり、セクハラ相談と同数程度となっています。
厚労省の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」の平成24年度版と平成28年度版を比較すると、「過去3年間にパワハラを受けたことがある」と答えた人が、4人に1人(平成24年度版)から3人に1人(平成28年度版)に増えています。もちろんハラスメントに対する意識が高くなっているという面もあると推測されますが、職場のハラスメントは決して減る傾向にはありません。
【被害者の4割が「何もしなかった」、会社に相談が2割】
「実態調査報告書」(28年度版)によれば、パワハラ被害者のうち「何もしなかった」(誰にも相談せず)と答えた人が40.9%。平成24年度版が46.2%だったことと比べれば若干減ってはいるものの、まだまだ被害の実態が闇の中にあることは間違いありません。とくに男性は「何もしなかった」人が多く48.4%、なかでも男性管理職は58.2%が誰にも相談していません。
では残りの6割の人はどうしているのでしょうか?「会社関係に相談した」が20.6%、「会社とは関係のないところに相談した」が24.4%、「会社を休んだり退職した」が17.0%です。平成24年度版では会社関係に相談した人が1割に満たなかったことと比べると一定の前進とはいえますが、まだまだ被害の実態の多くを会社は把握できていません。
セクハラ被害者に至ってはさらに相談しない比率が高く、労働政策研究・研修機構の平成28年3月発表の実態報告(7,154人から調査)によれば、63.4%が「がまんした、特に何もしなかった」と回答し、会社の相談窓口・担当者に相談したのはわずか3.1%という状況です。
ではなぜ「誰にも相談しない」のでしょうか?複数回答での調査結果は、1位「何をしても解決にならないと思ったから」(68.5%)、2位「職務上不利益が生じると思ったから」(24.9%)。平成24年度版では、会社に訴え出た場合の調査で、事実確認等の事情聴取は行うものの、結果としてほとんどが「判断せず、あいまいなままだった」と答えた人が57.7%に上っています。会社のハラスメント対策への不信感が背景にあるようです。
【ハラスメント対策が進めば相談率も高まる】
ハラスメントの相談窓口の設置状況は、中小企業と大企業との間で差が生まれています。28年度版調査によれば、99人以下の企業は44.0%、1000人以上の企業は98.0%です。その結果、1000人以上の企業では相談窓口でのハラスメント実態の把握率は91.9%である一方、99人以下の企業では24.3%にとどまっています。被害者の相談率も、取組を実施している企業の会社への相談率は31.2%、実施していない企業は17.1%にとどまっています。
ハラスメントの実態は深刻だと捉えている企業ほど取り組みが進んでおり、「わが社にはハラスメントはない」と思っている企業ほど取り組みが遅れており実態はより深刻であるという、ある意味では逆説的な結果となっていることを示しています。
【効果的な取り組みは?】
ハラスメント対策で効果的なものとして企業が挙げている比率が高いものは、①相談窓口の設置、②管理職向け・従業員向けの研修の実施です。一方、従業員にとって、企業の取組が一つだけではなく複数実施されている方が、「効果を実感しやすい」という回答結果も出ています。
こうした調査結果も参考にして対策を強化することが必要です。
