労使トラブル110番
着替え時間は労働時間になるのか
Q
「タイムカードを打刻する前に制服に着替えているが、本来は、着替えの時間も労働時間に入るはずだ」と職員から言われました。着替えといっても私服に羽織る制服で、特に時間がかかるものではありません。この時間も労働時間として扱う必要があるのでしょうか。この職員は10年以上勤続していますが、過去の着替え時間の分の給与も払ってほしいようです。
A
【労働時間とは何か】
どの時間が労働時間に該当するかについては、過去の最高裁の判決(三菱重工長崎造船所事件)で考え方が示されています。
<三菱重工長崎造船所事件、最高裁・平12.3.9判決>
「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるかにより客観的に決まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられ、又は余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」
具体的には、次のようなものは労働時間として取扱わなければならないものとなります。
①業務に必要な準備行為(着替え等)、業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)
②手待時間
③業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講、指示により業務に必要な学習時間
【着替え時間は労働時間なのか】
更衣室等で制服に着替える時間については、上記の判例から、「就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられ」た時間に該当するといえるため、労働時間に含まれることとなります。
ただし、単に制服の着用義務があるだけで、自宅からその服を着用して通勤することが認められている(事業所内での更衣が強制されていない)ような場合には、着替え時間は労働時間としなくてもよいとする裁判例(西日本高速道路サービス関西(株)事件など)もあります。今回の制服が「私服の上に羽織るだけ」のものであっても、事業所内で羽織ることが必要であれば、その行為に要する時間は労働時間と評価される可能性が高いと言えます。
【未払い賃金の支払い】
タイムカード打刻前の着替え時間については、労働時間として取り扱っていなかったということですので、その時間分の給与は「未払い賃金」となります。賃金請求権の消滅時効は2020年4月の法改正により、従来の2年から5年(当分の間は3年)に延長されました。本件の職員は10年以上勤続しているとのことですが、過去の分をすべて支払う義務まではなく、過去3年分(支払期日が到来しているもの)の未払い賃金を計算して支払うことになります。
過去の着替え時間については、実際の着替えに要する実態を考慮し、労働者側と「1回〇分」と合理的な時間を話し合って決めた上で精算することが一般的です。また、出勤前だけでなく、退勤後の着替え(制服から私服へ)の時間についても同様の確認が必要でしょう。
【今後の時間管理の検討】
今後の実務としては、適正な時間管理への見直しが必要です。例えば、現在は「着替えの後にタイムカードを打刻」している運用を、「着替えの前に打刻(退勤時は着替えの後に打刻)」するように変更し、着替え時間も含めて労働時間として把握する体制を整えることが原則となります。
始業時刻そのものを前倒しする場合は、1日の所定労働時間が長くなってしまわないよう、終業時刻の調整や就業規則の改定をあわせて行う必要があります。
