労使トラブル110番
変形労働時間制における時間外労働の算定
Q
病院で、1カ月単位の変形労働時間制を採用しています。変形制をとった場合の所定労働時間の設定の仕方が難しいです。また、残業代の算定の仕方も教えてください。
A
【変形労働時間制とは何か?その導入要件】
労働基準法の原則である「1日8時間、1週間40時間」を、労働者の保護に反しない限度で緩和して弾力的に適用しようという趣旨で、労働基準法の改正によって導入されたのが変形労働時間制です。1ヵ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制とがあります。それぞれ導入要件が定められています。
<1ヵ月単位の変形労働時間制の導入要件>
①就業規則または労使協定により定めること
②1ヵ月を平均して1週間の労働時間が40時間を超えないこと
変形期間の労働時間の総枠
=週法定労働時間×変形期間の暦日数/7日
●30日の月=40×30/7
=171.42時間(171時間25分)
●31日の月=40×31/7
=177.14時間(177時間08分)
③各日・各週の労働時間を特定する(特定の日または週に8時間、40時間を超えても可)
<1年単位変形労働時間制の導入要件>
①労使協定により導入を定める(ただし、導入された場合の就業規則への記載は別途必要です)。なお、この労使協定は監督署への届出を要します。
②1年(または変形期間)を平均して1週間の労働時間が40時間を超えないこと
●対象期間が1年の場合:40×365/7
=2085.7時間
●対象期間が6ヵ月の場合:40×183/7
=1045.7時間
③各月、各日の労働時間を特定する(但し、年間労働日数は年間280日が限度、1日の労働時間の上限10時間、連続労働日数の限度6日などの限度がある)
【変形労働時間制の時間外労働の算定】
1ヵ月単位の変形労働時間制も、1年単位の変形労働時間制も、時間外労働の算定の仕方は基本的には同じです。
(1)各日ごとに計算する時間
①所定労働時間が8時間を超えて定められている日→所定労働時間を超える部分の時間
例えば、所定労働時間を10時間で定めている日であれば、10時間を超える時間が割増の対象となります。
②所定労働時間が8時間以下で定めている日→8時間を超えるに至った時間
例えば、所定労働時間を7時間で定めている日であれば、8時間を超えた時間が割増の対象となり、8時間までの時間は通常の賃金の支払でいいということになります。
(2)各週ごとに計算する時間
前提として、(1)の各日ごとで時間外労働として算定した時間を除くこと
①所定労働時間が40時間を超えて定められている週 →所定労働時間を超える部分
例えば、所定労働時間を週45時間で設定している場合は、45時間を超えた時間が割増の対象となります。
②所定労働時間が40時間以内に定められている週 →40時間を超えるに至った時間
例えば、所定労働時間を週35時間で設定している場合は、40時間を超えた時間が割増の対象となります。
(3)変形労働時間制の全期間で計算する時間
前提として、(1)および(2)で時間外労働とされた時間を除くこと
変形期間の労働時間の総枠を超えて労働するに至った時間
<1ヵ月変形の場合>
○30日の月の総枠は、171時間25分
○31日の月の総枠は、177時間8分
○28日の月の総枠は、160時間
<1年変形の場合>
○対象期間が1年の場合は、2085時間
○対象期間が6ヵ月の場合は、1045時間
変形制を採用した場合の時間外労働の算定は、複雑であり、正確な対応が必要です。
