労使トラブル110番
「労働条件の(不利益)変更」と「不当労働行為」の違い
Q
「定年の延長と退職金制度の変更」について、全社員と労働組合に書面で説明をしているのですが、労働組合が「協議に応じられない」と拒否するばかりか、「不当労働行為だ」と主張する者まで出ている状況です。「労働条件の変更」と「不当労働行為」とはどのような関係にあるのでしょうか?
A
【労働条件の変更についての原則】
経済的地位から使用者は圧倒的に有利な立場にあるため、労働基準法はその第2条で「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」と原則を明記し、第15条第1項では「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」とし、厚生労働省令で明示事項を具体的に定めています。
したがって、労働条件の変更は、労働者と使用者との合意によって変更するのが原則です。一方、社会状況の変化や経営状況その他の事由によって変更せざるを得ない場合も当然あり得ることで、その場合のルール、原則的考え方を労働契約法は次のように明示しました。
第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めることころによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合(就業規則で定める基準に達しない労働条件のこと)場合を除き、この限りでない。 ※( )書きは筆者
「定年の延長と退職金制度の変更」が上記の要件を満たしているかどうかをご検討ください。
【不当労働行為とは】
一方、不当労働行為とは、労働組合法第7条で定める禁止される行為のことを指します。具体的には以下の3つの類型のことです。
①不利益取扱い…労働組合員であること、あるいは労働組合に加入し若しくは結成しようとしたことなどを理由に不利益な取扱いをすることです。
②団体交渉拒否…正当な理由のない団体交渉拒否または誠実交渉義務の違反のことを指します。
③支配介入…使用者が組合の結成・運営に対する干渉行為、組合弱体化行為(経費援助含む)のことです。
たぶん、組合から出ている不当労働行為という主張は、②の団体交渉拒否のことを言いたいのだと思います。しかし、団体交渉拒否(誠実交渉義務違反ふくむ)とは、理由もなく団体交渉を拒否することはもちろんですが、不誠実な交渉態度を継続したり交渉の打ち切りのことなどを指します。逆に言えば、使用者が誠実な態度をとり続ける限りは、譲歩や合意をしなくても誠実交渉義務違反とはされません。
その辺の交渉態度が問題ないようであり、書面で説明を繰り返しておられるということであれば、「不当労働行為だ!」という主張は言いがかりのようです。