労使トラブル110番

気を付けたいハラスメント認定と出勤停止措置

                       

Q
 「上司から注意されるときの言葉づかいに嫌みがある」「いつも監視されているようだ」など悩んでいる従業員から相談があり、メンタル不調になりかけているようです。その上司に対してハラスメントとして出勤停止措置などを取ることは可能でしょうか。



A

【ハラスメントは法に基づき認定しなければなりません】


 ハラスメントの相談が最近増えていますが、その中には必ずしもハラスメントとは言えない相談が多々あります。ハラスメントに該当するかどうかを正確に確認しないでハラスメントとして対応すると権利濫用として「加害者」とされた者から反撃される場合もありますので注意が必要です。
 労働施策総合推進法では、職場におけるパワーハラスメントとは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素をすべて満たすものをいうとしています。
 ②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、社会通念に照らして、業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものをいうとされていますが、具体的には業務上明らかに必要でない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数・行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動などを指すとされています。
 ご相談の例では、指導する際の丁寧さや言葉遣いなどに問題はあるようで、少なくとも人間関係上の問題があるようですが、必ずしもハラスメントと断定はできないと思われます。



【出勤停止措置の妥当性】


 一般に出勤停止は処分の一環として行われます。多くの就業規則では、「訓戒→減給→降格→出勤停止→諭旨解雇→懲戒解雇」などの順番(必ずしもこの通りでない場合もあります)で処分がなされ、出勤停止は解雇の手前の処分と位置付けられています。
 ハラスメントとして認定し、かつ、それが処分されるべき案件であった場合に限り出勤停止処分が妥当であり得るのであり、安易にこの措置を取るのは避けるべき案件です。



【自宅待機という措置なら可能】


 出勤停止という処分とは違い、自宅待機という措置を取ることは可能です。自宅待機は処分ではなく業務命令として行うものですから、緊急に必要性がある場合に取り得る措置です。ご相談のケースでいうと、緊急に分離しなければ相談者が病気となってしまう可能性があるので、長期的措置の手前の段階としてとりあえず上司に自宅で待機してもらうということでしょう。
 それほどの緊急性とこの措置が妥当かということも検討しなければなりません。よくある例では、経理上の不正等が疑われる場合に、その証拠を確定するために担当者を自宅待機とする緊急措置を取るなどです。



【自宅待機と給与支給】


 原則として自宅待機中の給与は支給しなければなりません。裁判例(日通名古屋製鉄作業事件、名古屋地裁平成7.7.22)では、賃金を支払わないで自宅待機を命じ得るには、①当該従業員を就労させると不正行為の再発や証拠隠滅のおそれがあるなど緊急かつ合理的な理由がある。②自宅謹慎や自宅待機を実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠がある。のいずれかを要件としています。


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