労使トラブル110番
マタハラ最高裁判決(2014年10月)の新しい判断
Q
医療機関です。勤務する職員が妊娠したことがきっかけで休みがちになって、他の職員も困っています。こうした場合、解雇・雇止めをすることは問題がありますか。
A
【2014年最高裁マタハラ判決とは】
ある病院勤務の職員(理学療法士)が妊娠したことで、軽易業務への転換を申し出たところ、軽易な仕事の職場に配置換えとなり、副主任という管理職の地位もその際なくされました。その後、産休・育休明けに職場復帰したところ、管理職に戻されることはなく、当然その分の給与も減らされたままであったことから、その間の給与減の支払と損害賠償を求める裁判となった事件が、最高裁まで争われました。
2014年10月23日に出された最高裁の判決は、原告勝訴(病院側の敗訴)となり、その後の法改正等を伴う転換をもたらしました。
【何が新しい判断か】
最高裁判決では、まず男女雇用機会均等法第9条第3の規定「妊娠、出産、産休の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」は、強行規定であるとしました。強行規定とは、これに反する契約や就業規則の定め等はすべて無効であるということです。
また、かりに降格を行うとするならば、①労働者の同意または②事業運営上の特段の事情のいずれかがある場合にのみ例外的に適法となるとしました。①の「同意」とは、本人が同意し、一般的労働者が同意する合理的理由が客観的に存在しているかどうかが詳細に判断されるものであること、②の「特段の事情」とは、業務の必要性が不利益取扱いの影響を上回る特段の事情(不利益取扱いをしなければ業務運営に支障が生じる状況にあったうえで、不利益取扱いを回避する合理的な努力がなされ、人員選定が妥当であるなど)をさすとしました。かなり厳格な理由が必要だということです。
さらに、不利益取扱いが形式的に妊娠等を「理由」としていなかった(例えば「能力不足」を理由とする)としても、妊娠等を「契機」とするものであれば不利益取扱いとなるとしています。「契機」の意味は、原則として、妊娠等の事由の終了から1年以内であれば「契機としている」と判断されるとしています。
【不利益取扱い(解雇、減給、降格、不利益な配置転換等)の理由となる事由】
○妊娠中・産後の女性労働者が
・妊娠した、出産した
・妊婦検診を受けるため仕事を休んだ
・つわりや切迫流産で仕事を休んだ
・産前・産後休業をとった など
○男女労働者が
・育児休業・介護休業をとった
・子どもが病気になり看護休暇をとった
・育児、介護のための残業や夜勤の免除を申し出た など
【均等法・育児介護休業法の改正】
最高裁判決を受け、法改正も進みました。
①従来から禁止されていた事業主が行う行為を「不利益取扱い」、上司・同僚による就業環境を害する行為(制度等の利用に対する嫌がらせや妊娠等をしたこと自身に対する嫌がらせなど)をハラスメントと呼ぶことにし、両者を区別しました。
②労働者の就業環境が害されることを防止する措置を講じることを事業主に義務付けました。
労働行政も大きく舵を切り、違法行為を行った企業名を公表するなどの措置が取られるようになりました。
こうした法改正などの措置を踏まえ、厳格に対応するようにして下さい。