労使トラブル110番
退職金の不支給・減額はどこまで許されるか
Q
ハラスメント行為に対する職員からの訴えがあった職員が、その訴えがあったことを指摘したところ、自主退職を願い出たため、会社としてもそれを認めました(その結果、ハラスメントについて訴えてきた者たちは取り下げました)。ところが、退職後に、新たな不正行為、建物を損壊させてしまっていたことなどが判明しました。懲戒処分による退職ではないのですが、退職金の不支給あるいは減額という措置を取ることは可能でしょうか?
A
【「賃金の後払い」か「功労報償」か】
退職金の法的性格は、2つの側面があるとされています。1つは、「賃金の後払い」としての性格です。通常、退職金規程では、算定基礎額に勤続年数別の支給率を乗じて算出した額を支給するとされていますから、「賃金の後払い」という性格は否めません。そうすると、労働基準法24条1項の規定により「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」ことになります。
一方、退職事由により支給基準に差異が設けられたり、懲戒解雇や同業他社への就職をめぐり、退職金の減額なり不支給の定めをおいている会社も少なくありません。ここには、退職金のもう一つの性格である功労報償的な性格があるとされています。長年の勤続に対する功労に報いるという側面です。
基本的に裁判所は、懲戒解雇の場合に退職金の不支給・減額の規定を設けていることについて、労働基準法24条1項の賃金全額払いの原則に反しない、限定的にその適用を認めるという考え方をとっているようです。
【懲戒解雇を経ずに退職してしまった場合】
ご質問のケースのように、懲戒解雇を経ずに労働者が退職してしまった場合、一般的には退職金の不支給・減額の措置を取ることは難しいです。しかし、退職後に在職中に懲戒解雇に相当する行為があったことが判明したときには、退職金の一部または全部を支給しない旨の規定があればその規定に従って不支給・減額の措置を取ることは可能です。仮にそうした規定がない場合は、損害賠償請求を行うことができ、本人との合意のうえで退職金との相殺を行うということになるでしょう。
【長年の功労を消し去るほどの罪状か】
次に検討しなければならないのは、不支給か減額支給かの判断をどうするかです。また、減額とする場合の減額率をどうするか(半額減額とするか、8割減額とするかなど)です。
考慮する必要があるのは、功労報償という考え方からして、長年の功労、功績を消し去るような行為があったのか、そこまでの行為とは言えないのか、会社に与えた実損額はどれぐらいなのかなどです。例えば、重大な犯罪行為がなされたとか、会社に著しく不利益になるような行為があったときなどで、長年の功労を否定するような場合は不支給としてもかまわないでしょう。しかし、そこまでの罪状ではないときには減額にとどめておいた方がいいでしょう。実際、裁判で争われているのは全額不支給となったケースが多いようで、裁判所は一部不支給にとどめるべきと判断する場合が結構あります。
【実損額を算定し、納得の得られる措置を】
以上の考え方を参考にしていただき、実損額(建物の損壊の修復代、不正行為の損害額など)を算出し、それ以外の費用と合わせて、減額率を決めるようにして下さい。