労使トラブル110番
心理的負荷による精神障害と新労災認定基準
Q
夫は今年に入り会社のプロジェクトの責任者を任せられ、途中退職した2人の従業員の分まで仕事を背負うことになりました。休みの日も出勤せざるを得なく、自宅にいても会社や同僚からのメールや電話による問い合わせがあり、長時間労働と連続勤務も重なり、うつ病を発症しました。医師の診断で休職(その後、休職の再延長を医師から診断された)している期間中に、会社から呼び出され、わけのわからないうちに事前に用意されていた退職合意書にサインさせられました。有給休暇も与えられず、非常に理不尽な思いだけが残っています。
A
【新労災認定基準に該当している可能性】
令和5年9月1日付で、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」(新労災認定基準)を発表しました。従来はどちらかというと長時間労働(月80時間、あるいは100時間を超える時間外労働)があったかどうかが認定の最大基準とされる傾向が強かったと言われていましたが、新基準では「時間外労働時間数に至らない場合にも、時間数のみにとらわれることなく、心理的負荷の強度を適切に判断する」(通達)としています。具体的認定に当たっては、発症前およそ6ヵ月の出来事で、心理的負荷の強度を「Ⅲ」「Ⅱ」「Ⅰ」としたうえで、典型的な検討事項を「弱」「中」「強」と例示しています。
該当している可能性があり、「強」と例示している部分をピックアップしてみます。
◎具体的出来事・・・2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った
◎「強」になる例・・・〇1か月以上にわたって連続勤務を行った
・・・〇2週間以上にわたって連続勤務を行い、その間、連日、深夜時間帯に及
ぶ時間外労働を行った
(いずれも、1日当たりの労働時間が特に短い場合を除く)
◎具体的出来事・・・複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった
◎「強」になる例・・・人員削減等のため業務を一人で担当するようになり、職場の支援等もなさ
れず孤立した状態で業務内容、業務量、責任が著しく増加して業務密度が高
まり、必要な休憩・休日も取れない等常時緊張を強いられるような状態なっ
て業務遂行に著しい困難を伴った
◎具体的出来事・・・仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった
◎「強」になる例・・・〇過去に経験したことがない仕事内容、能力・経験に比して質的に高度かつ
困難な仕事内容等に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった又は
その後の業務に多大な労力を費やした
・・・〇仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(おおむね倍以上に増
加し1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、業務に
多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態とな
った状態となった等を含む)
◎具体的出来事・・・上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
◎「強」になる例・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
労災申請するためには、主治医の診断書、出退勤の状況のわかる資料、メールなどのやり取りの記録、同僚等の証言などの資料をそろえられる限りそろえることが大事です。
【労災認定された場合の効果】
労災認定された場合、まず休業補償として平均賃金の8割が支給され、療養補償給付として治療費が全額支給されます。かなり生活の安定を図ることができます。
また、労災で休業中に解雇・退職等をできないという法律の決まりがあるため、退職合意書は無効になると思います。さらに、会社の責任が認定されたということになりますので、会社に対して損害賠償請求をすることが可能となります。
こうしたことを踏まえて、病気の治療に専念してください。