労使トラブル110番
介護休業取得者の夏季休暇付与の制限は妥当か
Q
当社の就業規則では、途中入職者や病気休職者など通常よりも少ない勤務日数の人に付与する夏季休暇日数について、勤務日数に応じて逓減するよう規定しています。この度、介護休業を取得していた者がおり、その者についても休業明けの勤務日数に応じて夏季休暇日数を通常よりも少ない日数とするようにしたいと考えていますが、問題ないでしょうか。
A
【マタハラ・ケアハラに関する法律上の定義】
気を付けなければならないのはマタハラ・ケアハラとの関係です。介護休業との関係ですから、育児介護休業法で禁止されている育児休業等(介護休業も含む)の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止(法16条)に該当しないかどうかということです。
また、改正均等法施行通達では、「理由として」不利益取扱いの解釈について、直接理由としていなくても「契機として」不利益取扱いが行われた場合は、「理由として」不利益取扱いが行われたものと解されるとしており、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、「契機として」いると判断されますので注意が必要です。
育児休業等の申出・取得等を理由とする「不利益取扱い」の例としてあげられているのは次の場合です(育介指針)。
・解雇すること
・期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
・あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引下げること
・退職または正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
・就業環境を害すること
・自宅待機を命ずること
・労働者が希望する時間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限または所定労働時間の短縮等を適用すること
・降格させること
・減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと
・昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
・不利益な配置の変更を行うこと
しかもこれは例に過ぎず、就業環境を害した場合という多岐に渡る行為が該当します。
【裁判例を参考にする】
学校法人近畿大学事件では、規程上、育児休業期間は「昇給のための必要な期間に参入しない」とされており、この規定に基づいて昇給させなかったことについて、裁判所(大阪地裁・平成31.4.24)は「育児休業をしたことを理由に、当該育児休業期間に不就労であった効果以上の不利益を与えるもの」と判じました。
【警告書を発するところから始めることも】
ご相談のケースの場合、たしかに部長職であった者が、その役職であったが故に知り得た顧客情報をもとに同業他社で仕事をしているように見受けられます。これが事実であるかどうかを証拠として確定するところから始めた方がいいと思います。確定していない事実をもとに行動すると、逆にしっぺ返しを受けることにもなりかねません。もし事実を確定した場合には、実損がある場合には損害賠償請求権、退職金の一部返還請求などを行うことも可能性としてあり得るでしょう。
その確定度合いにもよりますが、とりあえず今後の被害を食い止めるために、「警告書」を相手に送付することから始めてもよいように思います。
【有給休暇の出勤率の扱いとの関係も考慮】
労働基準法39条7項では、年次有給休暇の出勤率の算定において、労災休業期間、産休期間と同様に、育児休業期間、介護休業期間を「出勤したものとみなす」としています。
以上から、必ずしも法律上、夏季休暇の算定上、介護休業期間を差し引くことがそのまま禁止されているとまでは言えませんが、マタハラ・ケアハラの該当・非該当の境界線上にあるとも言えます。したがって、慎重な検討を行った方がいいでしょう。