労使トラブル110番
年次有給休暇の半日単位、時間単位取得の留意点
Q
いままで有給休暇の取得は1日単位取得を原則としてきましたが、従業員から半日単位、1時間単位で取得できるようにしてほしいという要望が強く、導入することにしました。その際の留意点、とくに日によって就労時間が違うパート職員などの「1日の年次有給休暇に相当する時間数」はどのように決めたらいいのでしょうか?
A
【時間単位年休制度導入の背景】
従来年休は1日単位での取得が原則でしたが、通院や家族の病気、子どもの学校の行事などの事情から時間単位の年休を取得する必要性が意識されるようになってきました。通達(昭和63.3.14基発150号)によって、「労働者の請求で使用者が任意に半日単位の年休を与えることは差し支えない」とされ半日単位の年休が許容されるようになり(※)、さらに2008年の労働基準法改正で時間単位年休制度が導入されました。但し、時間単位年休導入の条件として、①労使協定の定めが必要、②1年につき5日の範囲内でのみ認めるという規制があります。
(※)半日単位の取得は、あくまでも認めることができるというもので、「使用者は半日単位で付与する義務はない」(前記通達)とされ、従業員が半日単位で請求してきたときに、会社が認めるのであればかまわないというものです。
もともと年休は、ILO条約に基づくもので、休養や活力の要請を目的として始まったものです。ヨーロッパなどではバカンスとしてまとまって取得するのが通例です。日本の特殊性として法律で「分割」取得ができる定めがありますが、分割にも限度があるということで、上記のような条件が付されているわけです。ですから、よく30分単位の取得を認めてほしいという要望がありますが、「分」単位の取得は法律的に認められていません。
【労働条件の不利益変更が許容される条件は】
もちろん労働条件の変更について合理的理由があって、かつ、従業員が真に納得、合意するならば不利益変更も認められます。
しかし、今の時代は人出不足が深刻な状況ですし、とくに保育園は保育士不足が深刻で、今までの有利な条件が変更することをきっかけに退職とかを招いてしまうわけにはいきません。「不利益に変更する条件」に相当する「有利な労働条件の変更」を検討した方がいいように思います。
【労使協定の協定事項】
時間単位年休導入の労使協定で定める事項は次のとおりです(労基則24条の4)。
①時間を単位として与える有給休暇を与えることができることとされる従業員の範囲
・製造ラインの作業に従事する従業員、裁量労働制が適用される従業員、第35条(適用除外)に該当する従業員などを除く例が多い
②時間を単位として与えることができることとされる年次有給休暇の日数(5日以内に限る)
③時間を単位として与えることができることとされる年次有給休暇1日の時間数
・1日の時間数は、1日当たりの所定労働時間数(1時間未満の端数があるときはこれを1時間に切り上げる)
・日によって所定労働時間が異なる従業員については、1年度における1日平均の所定労働時間数とする
④1時間以外の時間を単位として(例:2時間)時間単位年休を与えることとする場合には、その時間数
ご質問の「日によって就労労働時間が違うパート職員」の1日の時間数は、1年間の平均が仮に1日5.4時間だとすると、端数を切り上げて1日当たり6時間となります。
【時間単位年休と他の制度との関係】
時間単位年休と他の年休制度の関連について留意点を次に記しておきます。
(1)使用者が年5日年休を指定する制度との関連
労働基準法第39条7項は、年10日以上の有給休暇を有する者について、使用者が5日について有給休暇の時季を指定する制度を導入しました。これは日本における有給取得率の低さが国際問題となったため、本人の請求による取得ないしは計画年休による取得が年5日に達しない場合、使用者の権限として5日まで付与することを義務付けたものです。
ここで留意してほしいのは、1時間単位の年休取得の日数は、この5日の付与義務の日数にカウントされないということです。
(2)半日単位年休との区別を行う
半日単位年休は、労使協定の締結なく導入できるもので、また上限日数もありません。
ただ時間単位年休ときちんと区別することが大事です。例えば、半日単位年休を「4時間分の年休取得」として管理することはできません。半日単位年休はあくまでも「0.5労働日」の年次有給休暇を取得したものと扱うもので、それに時間単位年休を加算するような混乱した扱いをしてはならないというということです。