労使トラブル110番
労働条件の不利益変更と代替措置
Q
保育園です。就業規則の古い規定が残っており、健康保険の出産手当金を受給できなくなっています。具体的には、「産前8週間、産後8週間産休を取ることができる。産休中は有給とする」という規定です。出産手当金を受給する条件は、産前6週間であること、給与は支給しないことが必要です。仮に、出産手当金をもらうために、産前を6週間にし、無給とするとしたなら、職員にとって不利益変更となってしまいます。経営上は出産手当金をもらえるようにしたいが、保育士不足の状況で不利益変更はあまりしたくないのですが。
A
【出産手当金制度とは】
出産手当金は、産前6週間、産後8週間という労働基準法で定められた産休期間につき、健康保険から標準報酬額の3分の2の額が被保険者に支給される制度です。意外とこの制度が始まったのは新しく平成10年4月からです。多分その就業規則の規定はそれよりも前に作ったもので、それが残っているものでしょう。たしかに、出産手当金を受給できなくなっているのは経営上の損失と言えます。
【労働条件の不利益変更が許容される条件は】
もちろん労働条件の変更について合理的理由があって、かつ、従業員が真に納得、合意するならば不利益変更も認められます。
しかし、今の時代は人出不足が深刻な状況ですし、とくに保育園は保育士不足が深刻で、今までの有利な条件が変更することをきっかけに退職とかを招いてしまうわけにはいきません。「不利益に変更する条件」に相当する「有利な労働条件の変更」を検討した方がいいように思います。
【代替措置を検討する】
仮に就業規則を改定して法律通りに出産手当金を受給する場合、不利益変更となるのは、①産前休業の期間が「8週間から6週間」に短縮されること、②産前産後の休業期間につき、いままで約4ヵ月間の全額給与保障があったのに対し、保障される期間が約3ヵ月半に短縮され、かつ、保障額が全額から3分の2に減額されることの2つの不利益変更となります。それの代替措置として考えられるものを列挙してみましょう。
(1)産前休業期間の短縮に伴う休暇制度の検討。つまり、2週間産前休業が短縮されるのに対して、特別の休暇措置を設けるかどうかです。
(2)受給できる金額の減少に対する補填措置の検討。これは出産手当金受給中に給与保障すると出産手当金の減額なり支給停止となってしまうためできませんが、出産祝い金のような制度を設けて、一時金として支給することは検討できるでしょう。なお、賞与は年4回支給することはできず、4回目は給与に慣らして支給することになるので手続き的に面倒になります。年3回までの賞与として支給するようにしなければなりません。
(3)育児休業規程における育児短時間勤務制度及び時間外労働の免除制度の拡充の検討。法律上は、いずれも「3歳までの子を養育する労働者」が対象となっています。これを例えば「小学校就学前までの子を養育する労働者」に範囲を拡大することが考えられます。3歳を過ぎても保護者の苦労はそれほど軽減されるわけではありませんので、小学校就学前までを対象にすることは歓迎されると思います。
保育士不足問題だけでなく、今日における社会問題として超少子化問題があります。上記のような措置も含めてご検討ください。