労使トラブル110番
試用期間中に病歴が発覚した場合、本採用拒否はできるか
Q
中途採用者で、試用期間中、わずか1週間勤務したのちにヘルニアということで、2か月間休職の診断書が提出されました。採用時に病歴の申告はなされていません。こうした場合に「経歴詐称」として懲戒解雇もしくは本採用拒否をすることはできるのでしょうか。
A
【経歴詐称による懲戒が可能な場合】
多くの企業では、「労働契約締結時に、最終学歴や職歴など、重大な経歴を偽り、会社の判断を誤らしめた者は懲戒解雇とする」というような就業規則の規定があると思います。一般的に、その経歴詐称が事前に発覚すれば。会社はその者と契約を締結しなかったか、少なくとも今の条件とは違った労働条件で締結していたというような場合には経歴詐称として懲戒事由になると考えられています。
こうした例に当たる代表的な例としては、最終学歴、職歴、犯罪歴などがあります。最終学歴や職歴が詐称されていると、労務提供に対する会社の評価を誤らせることになり、人事コースなども支障をきたしてしまいます。なお、犯罪歴については、特段に事情がない限り、「すでに刑の消滅をきたしている前科まで告知する信義則上の義務はない」という裁判例も出されています(マルヤマタクシー事件、仙台地裁昭60.9.19)。
【病歴の申告について】
では病歴の申告はどう考えるべきでしょうか。労働者が採用募集に応募している限り、企業としては労務提供に関連した採用判断に必要な情報の取得が許容されていると考えられています。職安法5条の4は、求職者などの個人情報の取扱いについて定めており、個人情報の収集は、業務の目的の達成に必要な範囲内でなければならないとしています。法律に基づく指針で「収集してはならない個人情報」として、①人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、②思想および信条、③労働組合への加入状況をあげています。
したがって、採用にあたって病歴の申告は必ず求めるべき事項といえます(社会的差別につながるようなHIVやB型・C型肝炎、色覚異常のような病歴は収集してはなりません)。例えば採用面接で病歴を聞くことも可能ですし、経歴書のフォーマットに病歴の記入欄を設けて記入してもらうやり方でもいいでしょう。
また、採用前に健康診断を実施して、採用判断の資料とするのも可能です。
なお、最近はメンタル不調による休職等が増えていることを考え、採用時の申告も慎重に行うとともに、試用期間中に休職制度の適用の可否についても(適用しなくともいいと思います)決めておいた方がいいでしょう。
【普通解雇事由に該当するかどうか】
経歴詐称と判断できない場合どうしたらいいのかですが、これは実際の現実の業務との関係で遂行可能かどうかを判断することになります。いわゆる普通解雇事由の該当性の判断です。
多くの会社の就業規則では、普通解雇事由の一つとして、「身体または精神の障害等により業務に耐えられないと認められたとき」と書かれている場合が多いと思います。この条項に該当するかどうかを、実際に行っている業務と健康状態との関連を、総合的に判断することになります。もちろん解雇ですから、解雇予告(予告手当の支払いを含む)制度の適用の対象となります。