労使トラブル110番
交通事故の際の示談解決の危うさ
Q
従業員が自転車での通勤途上で、自動車事故に遭い、足を骨折しまして。相手側が治療費と休業補償を行うとのことで、示談が成立しそうですが、労災補償(通勤災害)の対象になる場合、こうした解決の仕方は避けた方がいいのでしょうか。
A
【通勤災害の申請をすべきです】
労働者が通勤(通常の経路で通勤していた場合に限ります)途上で事故に遭ってけがをした場合、通勤災害の対象となります。仮に自己責任が大きかったとしても通勤災害の対象となります。とくに駅の階段で足を踏み外したとか、横断歩道のないところで横断しようとしたから自己責任によるものだから通勤災害にならないと勘違いされている方がいますが、事故というのは何らかの過失を伴う場合があるものですから、気にする必要はありません。
「示談で解決した」と思っていても、最初の口約束と相反して、相手側の保険会社が途中から治療費等を出し渋るというケースも多々ありますし、特に交通事故の場合後遺障害(むち打ち症など)が発生したときに、保険会社は一切補償しない場合があります。そう考えると、長期的にみて通勤災害の認定を受けておくことが大事です。
通勤災害の認定がなされると、治療費は全額支給され(松葉づえ等の使用の経費も含め)、休業給付(8割分の給与)も支給されます。また、万が一、障害になった時の障害給付もあります。後遺障害となった時の治療費も支給されます。
【第三者行為災害の届出を】
通勤災害の申請をする際、交通事故などの場合は「第三者行為災害届」もあわせて行うことが大事です。相手側が示談に応じて保険等から給付した際には、労災側からの給付と示談による給付との調整が行われます。「調整」とは、仮に労災側からの支給が先行した場合、第三者側にその分の請求が行くことになり、相手側からの示談による給付が先行した場合、その分労災側からの給付がその範囲内でストップするということです。つまり、労災側の給付と相手側からの給付の二重取りはなされない仕組みです。
【事故証明があるとスムーズにすすむ】
交通事故などの場合、警察が介入して「事故証明」をすぐ取り寄せられると、客観的証明として活用できるためスムーズに申請できます。「事故証明」がないと、事故状況の調査から始めることになりますので面倒です。
厚生労働省は、『第三者行為災害のしおり』というパンフレットを出しています。監督署に常備されているはずですからそれをご活用ください。
【健康保険による治療との関係】
通勤災害の認定がされると、健康保険による給付対象ではなくなります。健康保険は、「労災保険からの給付以外の給付」を行うということになっているため、仮に最初に行った病院などでの治療で健康保険を使ったときは、後で労災保険との給付の調整が行われることになるため、面倒な手続きをしなければならなくなる可能性があります。
最初に病院に行ったときに、事故の状況などをきちんと説明し、病院側の判断で治療費の扱いを病院側に委ねることが大事です。その説明をしないと面倒な手続きが生まれる可能性があるということです。