労使トラブル110番
退職代行業者からの通知にどう対応する?
Q
退職代行業者から、ある従業員の退職日とそれに伴ういくつかの措置に関する手紙が届きました。①退職日は○月○日とする、②それまでの期間は有給休暇を申請する(買取は可能かも併せて質問している)、③私物及び会社所有物の引き渡し方法、④その他連絡は従業員本人ではなく、業者宛に行って欲しい、などが主な内容です。そもそもこうした業者を相手にする必要があるのでしょうか。実務的な連絡はさておき、有給休暇の請求に対する対応、こうしたやり方に対して解雇することはできないのでしょうか。
A
【退職代行業者ができる範囲】
本人に成り代わって会社に退職の意思を伝えるということを専門にする業者が最近増えているようです。弁護士法によって、本人に成り代わって交渉するという代理行為は原則として弁護士以外はできないことになっています。退職代行業は弁護士以外の業者がやっているのがほとんどですから、できる範囲はあくまでも「伝言」です。それを超える権限はないことをはっきりさせて対応することがまず大事です。
さまざまな事情や本人の性格などで、「会社の人とは会いたくない」ということでこういう業者を使うというケースが多いようですが、退職に伴う手続きには所有物のやり取りだけでは済まない場合が多々あります。例えば、守秘義務に関する誓約に関する教育及び誓約書の取り交わしなどが就業規則上も義務づけられている場合、代行業者が本人に成り代わって対応することはできません。もちろん退職日や有給休暇に関する交渉を行うことも本人でなければできません。その点を踏まえて対応するようにして下さい。
【退職の自由は法律で保障されています】
従業員も会社も、意外と知らないこととして、退職の自由が法律で保障されていることです。そもそも憲法で保障された権利ですし、民法では「退職の意思表明後2週間で退職となる」と定めています。2週間を待たずとも会社の側が了承すればその日に退職の効力は発生します。わざわざ代行業者に金を使ってまで意思表明する必要はないのです(相場は3万円とも5万円とも言われています)。
一方、会社側は就業規則で「退職の表明は1ヵ月前までに行う」と定めている場合に、「1ヵ月を過ぎているので無効」と主張するケースがあります。しかし、法律の定めが優先されますから、就業規則のこうした定めはあくまでも「推奨規定」と考えた方がいいでしょう。まして、この就業規則の規定に反するから解雇とするというのは解雇権の濫用とみなされます。
【有給休暇の付与に関する対応】
有給休暇を請求する権利は労働者にありますが、使用者には時季変更権という権利があります。時季変更権というのは、請求された日に有給休暇を取得されると業務が成り立たないなどの事情があるときに、別の日に請求してくれと有給の時季の変更を労働者に請求する権利のことです。もちろん最大限に労働者の請求権を認めるという前提の上での使用者側の権利ですが。
退職間際の有給休暇の請求については、残務の整理や業務の引継ぎ等どうしてもやらなければならないことが通常あるものです。それを「数日後に退職する」と表明し、「残りの日数は有給休暇で処理してくれ」と請求してくるケースがあります。これは使用側の時季変更権を行使する余地のない請求ですから、残りの日数を有給休暇としなければならない義務があるとまでは言えません。裁判でも、こうしたケースについて、「不利益は労働者が甘受すべきである」としている例があります。ですから有給休暇とするかどうかはケース・バイ・ケースで判断するのが得策と思います。また、有給休暇の買取はそもそも法律的に禁止されていることですから、拒否してかまわないです。