労使トラブル110番
突然の退職申出、有休買取請求にどう対応?
Q
「退職を希望する者は30日前までに会社に告知すること」と就業規則で定めています。にもかかわらず、ある従業員が30日を過ぎてから退職を告知してきたばかりか、有給休暇の残日数に見合った賃金を支払うよう求めてきました。
就業規則には有給休暇の規定がなく、違法なことであるとは思いますが、かといってこの従業員の要求に応えなければならないのでしょうか。
A
いくつかの問題がありますので整理してみましょう。
【「30日前までに告知すること」の規定の性格】
会社としては突然退職すると言われると、業務の引継ぎや次の人員確保等の対策もありますからなるべく早めに知っておきたいと思うのは当然です。そういうことから、このような規定を就業規則に書いてあるところが少なくありません。ただこうした規定はあくまでも会社のルールであって、法的拘束力があるわけではありません。法律的には、労働者の退職の自由が保障されており、民法では、退職を求めてきた場合、会社が「承認した日」または承認がなくとも「2週間経過」すると退職と扱うことになっています(1年を超える有期契約の場合は、1年を超えるといつでも退職できると労基法137条で定めています)。
また、こうした定めにかかわらず、労働者に有給休暇の権利があることはいうまでもありません。
【有給休暇の規定が就業規則に書かれていないとしても】
有給休暇のことは就業規則に明記しなければどうなるのかというと、それ自身がすなわち違法であるとまでは言えません。もちろん書いた方がいいことは間違いありませんし、少なくとも採用時の労働条件通知義務の内容として「休暇・休日」に関することがありますから、採用時の労働条件通知書には必ず明記しなければなりません。
一方、就業規則に書かないから有給休暇の権利はないというわけではもちろんなく、法律で定められた日数は最低誰でも権利として有していることになります。
【有給休暇の買取は認められるか】
従業員は「有給休暇残日数に見合った賃金」を要求しています。これは事実上有給休暇の買取の請求ですが、これは「法律で保障されている休暇を金に換えるもの」ですから法律的に認められません。
但し、認められ得るのは、
①法律の付与日数を上回る付与日数を付与している場合のその上回る日数分、
②有給休暇の消滅時効(2年)で消滅した部分、
③退職後に一定日数分を支払うこと、です。
【退職間際の有給休暇請求の問題点】
一般に労働者には有給休暇の請求権があり、使用者には時季変更権があります。もちろん時季変更権の行使にはおのずと制約があり、労働者の請求権を阻むような時季変更権の行使はできません。
しかし、突然退職すると労働者から言われて、例えば退職日の20日前に言われて、有給休暇の残日数が19日だとした場合に、使用者としては、業務の遂行上も困りますし、時季変更権を行使する余地も全くありません。ある意味で労働者側からの乱暴な請求ですから、使用者としてもそれは無理だということはできるわけで、裁判例でも「(こうした)場合の不利益は労働者が甘受しなければならない」ともされています。
【どう対応するか】
以上の法律的考え方を踏まえて会社としてどう対応するかを考える必要があります。いくつかの選択肢があろうかと思います。
一つは、退職は認めるが、有給休暇の買取はできないと拒否するという選択肢。
二つは、退職後に一定日数分の手当を支払うという選択肢。
三つは、退職時期をずらさせ、業務の引継ぎ等を完了させ、有給休暇残日数を消化後に退職してもらうよう説得する選択肢。
その他、従業員の功績や、他の従業員との関係などいろいろな事情もあると思いますので、その辺も考慮して判断してください。また、これを機に就業規則の見直し等もご検討ください。