労使トラブル110番
副業・兼業は認めるべきか、残業代の支払は?
Q
介護事業所の登録ヘルパーさんや非常勤職員から「副業を認めて欲しい」という要望が増えています。また、実際に副業をしている方もおられます。
就業規則では認めるとも認めないとも規定していないのですが、どのように考えたらいいのでしょうか。
また残業代の支払はどう考えからいいのでしょうか。
A
【副業を禁止できる場合とは】
政府は推進する方向を打ち出し、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しています。もちろん副業・兼業を認める法律上の義務があるわけではありません。今でも半分の企業は「副業禁止」としているようです(アデコ社調査)。一方で、生活苦を背景に、あるいは「スキルアップしたい」という希望で副業している労働者もいます。
この問題での多くの裁判例では、次のような事由がある場合は、副業・兼業を禁止又は制限できるとしています。これらを参考に就業規則で具体的に規定することをお勧めします。
〇労務提供上の支障がある場合
〇業務上の秘密が漏えいする場合
〇競業により自社の利益が害される場合
〇自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
【労働時間は通算される】
気をつけなければならないのは、自社の労働時間と他社での労働時間は通算されるということです。したがって、通算された時間は労働時間に関する労働基準法の上限規制に範囲内でなければならないこと、また通算した結果残業が発生する場合は36協定の締結や残業代の支払が求められるということです。
「ガイドライン」でも、労基法第36条に基づき、副業・兼業は「時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月(2~6ヵ月)平均80時間以内」としなければならないとしています。
労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間を通算すること、労働時間計算の起算日が異なる場合も、自らの事業場の起算日を基に計算することとしています。
仮に、先に労働契約を結んでいたのがA事業場、後に契約したのがB事業場だったとするなら、次のようなステップごとに対応することになります。
<副業開始前>
A事業場とB事業場のそれぞれで定めている所定労働時間を通算し、法定労働時間を超える部分があるときは、後から契約したB事業場における当該超える部分が時間外労働となりますので、B事業場における36協定の締結で定めることになります。
<副業開始後>
A事業場の所定外労働時間とB事業場の所定外労働時間とを、所定外労働時間が行われる順に通算し、それぞれ自らの事業場において発生した所定外労働時間のうち法定外労働時間部分がある場合は、超える部分が時間外労働となり、それぞれの事業場の36協定の範囲内とする必要がある。この場合の実労働時間の把握方法は、労働者からの申告等により行い、必ずしも日々把握する必要はなく、1週間分などをまとめて把握すればよい。
【割増賃金の支払い】
上記の方式で労働時間を通算し、その労働時間について、自らの責任により発生した部分(=自らの責任で発生した時間外労働部分及び副業開始前にそもそも発生しているB事業場における時間外労働部分のこと)につき割増賃金を支払うことになる。
【管理モデル方式を採用してもよい】
「ガイドライン」ではより簡易な方式として、管理モデル方式の採用を認めています。この方式は、A事業場とB事業場が、「各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し…その範囲内で労働させる」方式をとることによって、いちいち実労働時間の把握を要しないという方式です。一種の固定残業制のような方式です。但し、設定した上限時間を超え、労基法上の上限規制を超えた場合は法律違反に問われます。
【保険はどうなる】
副業している労働者が労災事故に遭った場合、給付は両方の賃金を合算して計算されます。また両方の就労実態を総合的考慮して労災認定が行われます。
雇用保険、社会保険は、それぞれの事業場の週所定労働時間によって加入が判断されます。いずれも満たさない場合は加入できません。逆に両方の事業場が要件を満たす場合は、雇用保険については主たる賃金を受ける事業場の方で加入し、社会保険はいずれかで加入し、保険料は案分して負担する方式をとります。