労使トラブル110番
1年単位変形制度と1ヵ月単位変形制度のメリット・デメリット
Q
建設業を営んでいる会社です。
この度労働基準監督署から呼び出し調査を受け、その際、「1年単位変形制度の要件を満たしたシフトが作成されていない可能性がある」ので「適正な運用を図るための措置を検討してください」と指摘されました。
弊社では、従業員の希望を生かしながら、年間労働日数の要件を満たしたシフトを作成していますが、どうも「連続労働日数」が7日間の者がいたことを指摘しているようです。どう対応するかサジェスチョンお願いします。
A
【1年単位変形制度の要件とは】
労使協定を結ぶことによって(届出が必要)、1年以内の期間を対象期間として、その期間を平均して週40時間を超えない範囲内で、1日8時間、週40時間を超えて労働させることができる制度です。デパートなど繁閑の差が大きい業種がよく採用されている制度で、繁忙期には1日10時間、週48時間などの労働時間とし、閑散期には1日6時間、週30時間などの労働時間とすることが可能な制度です。また、繁閑の差はそれほどないものの、各週土曜日を出勤日とするような勤務形態のところもこの制度を採用しているところがあります。仮に1年を対象期間とした場合、「365日÷7日×40時間≒2085時間」の範囲内で法定労働時間を変形させられる制度ということです。
一方、1年などの長い期間に変形させることの労働者にかかる負担の大きさを考慮して、いくつかの労働時間、労働日数等の限度が設けられているのが特徴です。
① 1年当たり280日が労働日数の限度(=年85日以上の休日を確保)
② 1日10時間、週52時間が労働時間の限度
③ 48時間を超える週が連続3以下であること
④ 連続労働日数は原則6日が限度(但し、特定期間を設ければ週1日の休みを確保すれば12日連続労働も可能)
この制約を前提に、勤務体系を組む(シフト・カレンダーをつくる)必要があります。貴社に対して、監督署はこの法的制約(連続労働日数の制約)が守られていないことを指摘したわけです。
【1箇月単位の変形制度とは】
これに対し1箇月単位の変形制度は、労使協定または就業規則により導入することができ、1箇月以内の期間を平均して週40時間以内の労働時間であれば、特定の週あるいは特定の日に週40時間、1日8時間を超えた労働をさせることができることのみを定め、他に1年単位の変形制度のような労働時間と労働日数の制約はありません。31日の月であれば「31日÷7日×40時間≒177時間」、30日の月であれば「30÷7×40≒171時間」、28日の月であれば「28÷7×40=160時間」の範囲内で勤務体系(シフト・カレンダー)を定めればよいわけです。
病院の看護師さんなど夜勤・昼勤の交替勤務で、夜勤の日の連続労働時間は優に8時間を超えます。こうした場合は1箇月単位の変形制度で対応するのが適切です。
【実態に合わせて選択をする】
建設業でも、業務の実態が繁忙期と閑散期がある場合と、あまり繁閑の差がない場合とがあります。繁閑の差が明確にある場合は1年単位の変形制度を採用するのが適切でしょう。また、下請さんの場合は元請から仕事が突然入ってくることが多く、長期的見通しをもったシフトを組むことが難しいため、1年単位変形のシフトはなかなか組みづらいという問題もあり、むしろ1箇月単位の変形制度の方が適切となります。
一方、地域密着型で自前で仕事をしている建設業の場合は、会社があらかじめ組んだスケジュール通り仕事を進められますから、長期的見通しをもったシフトを組むことも可能ですから、1年単位の変形制度を採用することが可能となります。
1年単位変形制度と1箇月単位変形制度それぞれのメリットデメリットを理解した上で、会社の業務の実態に合わせていずれを採用するのか選択してください。