労使トラブル110番
懲戒処分と関連した措置に対する賃金保障義務
Q
業務で車を運転している従業員が、歩行者と接触事故を起こしたにもかかわらず、それを放置し、かつ事業所にも報告しないままでした。
たまたま被害者から連絡があったため事故が判明し、就業規則に基づく懲戒処分を行ったところです。その際、再度安全運転講習を受講させる必要があると判断したのですが、安全講習の参加費及び参加に要する時間の賃金保障をする必要があるのでしょうか。
A
【「職務命令」とみなされる場合】
ご質問の例と類似のケースとして、懲戒処分と関連して自宅待機措置が取られることがあり、その自宅待機期間中の賃金保障はどうすべきかという問題があります。
リーディングケースとして紹介されるのが【日通名古屋製鉄作業事件】(名古屋地裁平成3年7月22日判決)の判例です。この事件は、同僚と口論になり、その同僚に暴行して全治1週間の傷を負わせた従業員に対して、会社は10日間の自宅待機を命じた上で、けん責・降格処分を行いました。その従業員は、処分の無効と自宅待機期間中の賃金の支払いを求めて訴訟を起こしました。その会社では、懲戒処分と関連して自宅待機を命じられた場合は欠勤扱いとするという慣行があり、労働組合もそれを了承していたようです。裁判所は、「このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然その間の賃金支払義務を免れるものではない」としました。
【「賃金を支払わないで命じられる」場合とは】
一方、同判決では、賃金を支払わないで自宅待機を命じられる要件は次のいずれかであると述べています。
「① 当該従業員を就労させると不正行為の再発や証拠隠滅のおそれがあるなど緊急かつ合理的な理由がある。
② 自宅謹慎や自宅待機を実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠がある。」
①のケースとは、たとえば不正経理が疑われるような場合で、緊急の調査をしなければならないときに、当該従業員が出勤させると証拠隠滅の可能性があるため自宅待機措置をとることなどが考えられます。
②のケースとは、懲戒の種類の一つとして「出勤停止」処分との関係で考えるとわかりやすいと思います。通常、会社の懲戒の種類は、「けん責」「減給」「出勤停止」「降職・降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」というのを設定しています。このうちの「出勤停止」処分の日数の数え方として、「自宅待機」の日数を含める、または自宅待機日数とは別に出勤停止〇日という処分を行うとします。問題は、「実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠がある」かどうかです。
ですから、懲戒規定では、「出勤停止〇日(事前に行われた自宅待機日数を含む)」というように規定すればいいということになるのではないでしょうか。なお、出勤停止期間を何日にするかはとくに決まりがあるわけではありません。戦前の工場法が出勤停止を7労働日と規定していた名残りで「7日以内」としている会社が多いようですが、短すぎるという印象もあるようです。「30日以内」でもいいと思いますが、「3カ月以内」などという長過ぎる日数にすると、逆に「だったら懲戒解雇する必要はないのでは」という疑問も生まれますから、適当な日数の設定は難しいところです。
【ご質問のケースの場合】
ご質問のケースにそのまま上記裁判例が当てはまるわけではありませんが、類推して考えることはできるかと思います。
つまり、処分とは別に「職務命令」として安全運転講習の受講を命じた場合には、業務として講習に参加することになりますから、その時間は労働時間となり、賃金保障もしなければならないでしょう。一方、今回の行為に関する懲戒処分の一環として安全運転講習の参加も併せて行った、すなわち講習参加も処分内容の一つであるならば、賃金保障義務は免れると考えられます。