労使トラブル110番
変形労働時間制における「振替」及び「時間単位年休」のルール
Q
弊社は1年単位の変形労働時間制を採用していますが、休日振替について、1日の所定労働時間の長い日の振替と、短い日との振替の対応の仕方、割増賃金の発生なども含めて教えて下さい。
また、変形労働時間制の場合、半日単位の年休や1時間単位年休の取得の仕方、1日の所定労働時間の算出の仕方も教えて下さい。
A
【むやみな振替変更ができない変形制】
変形労働時間制は、あらかじめ労働日及び労働日ごとの労働時間を具体的に特定することが要件となっています。したがって業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は変形労働時間制に該当しないとされています。通達でも、「例えば貸切観光バス等のように…あらかじめ労働時間を定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、一年単位の変形労働時間制を適用する余地はない」(平6.1.4基発1号)としています。
しかし、予期しない事情が発生し、やむを得ず休日の振替を行わなければならないことはあり得ることで、それまで認めないとはされていません。
【変形制における振替の要件】
その際の要件は次のとおりです。
① 就業規則等において休日の振替を必要とする場合に休日を振り替えることができる旨の規定を設け、これによって休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定すること。この場合、できる限り、休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を特定することが望ましいこと。
② 対象期間(特定期間を除く)において連続労働日数が6日以内となること。
③ 特定期間においては一週間に一日の休日が確保できる範囲内であること。
【変形制の枠が崩れない範囲でのカレンダー表の変更】
振替は年度当初に労使協定で定めたカレンダー表の変更となりますから、前記の連続労働日数の基準を守ることを前提に、カレンダーの変更として事前に労働者代表の同意を得て振り替えることになります。
では、割増賃金の発生はどうなるのでしょうか。一週間の所定労働時間の総枠の範囲内であるならば、休日の振替につき1日8時間を超える日と休日との振り替えであっても、時間外労働とはなりません(安西愈弁護士)。こうしたルールを超えた随時変更だと、変形制そのものの要件にも関わり、また時間外労働も発生します(8時間を超える部分が時間外労働となる)。
【半日年休と1時間単位年休の法律上の違い】
年休は1日単位で取得するのが原則です。その原則の中で、通達で半日年休を取得できるとされました。一方、1時間単位年休は、平成22年4月施行の改正労基法で導入手続(労使協定によってはじめて可能となる)含めて定められた法律上の制度です。したがって、半日年休はあくまでも1日単位を前提とするものであり、時間単位年休制の中に半日単位年休が含まれるものではありません。ですから、例えば、労働時間の途中の4時間(その前後に労働時間がある)というのは、あたかも休憩時間の延長的なものになってしまうため、本来の1日年休の趣旨から逸脱してしまうことになり、半日年休とはなりません。こうした場合、時間単位年休として取り扱うことになります。
では半日とは何を指すのでしょうか。通達では、「『半日』については、必ずしも厳密に一日の所定労働時間の二分の一とする必要はないが、その場合には労使協定で当該事業場における『半日』の定義を定めておくこと」とされています。多くの企業では、午前半日(始業時刻から昼食休憩まで)、午後半日(昼食休憩後から終業時刻まで)を意味するものが多く、その結果、午前半日は3時間、午後半日は4時間となるなど半日の労働時間が異なっても半日年休の取得として取り扱うことになります。
【時間単位年休の1日の時間数】
改正労基法は時間単位年休についていくつかのルールを定めています。
①労使協定によって初めて導入が可能となる。その際、対象とする労働者の範囲も定める。
②取得できる単位は「整数」(1時間未満の単位の取得はできない)。
③1日の所定労働時間が1日7時間半など1時間未満の端数が生まれる場合は、1日=8時間分の時間年休として端数を切り上げる
④年5日分までが取得の限度。
ご質問の、1日の所定労働時間数が日によって異なる場合(変形制や曜日によって勤務時間数が違うなど)には、1年間における1日平均所定労働時間数で、取得単位時間数を決めることとなります。