労使トラブル110番
業務委託契約を出向契約に切り替えることの可否
Q
医療機関に対して給食サービスを提供する会社です。
従来、医療機関と業務委託契約を締結して業務を推進してきましたが、実態としては医療機関側からの指示で仕事をするケースが多く、派遣か出向という形態が実態に近いように思います。
A
【在籍出向は 出向元の労働者を出向先が指揮命令する形態】
出向とは、労働契約を締結した労働者を、出向先において出向先の指揮命令を受けて、出向先に対し労務を提供することです。
出向と派遣、請負(業務委託)との違いを明確にすることが大事です。ご質問のケースでは、「医療機関側からの指示で仕事をする」ことが多いようですので、業務委託や請負という形態での契約はふさわしくないでしょう。業務委託とは、労働の結果である仕事の完成を目的とする請負の一形態であり、派遣や出向と違って委託企業が受託企業の労働者に自ら指揮命令を行うことはできません。政府もこうしたケースを「偽装請負」の疑いがあるとして区分を明確にするガイドラインや通達(平成19.6.29基発・職発・能発0329001号)を発行しています。
出向、派遣は、出向先(派遣先)が、労働者を指揮命令する形態です。
【出向と派遣の区別は】
では、出向と派遣との区別はどこにあるのでしょうか。もちろん形式的に、派遣法の許可を受けていない事業所が労働者派遣を行うことはできないのは当然ですが、法律的には労働者派遣法2条1号に根拠があります。
そこでは、「(派遣は)当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」と明記しています。
つまり、労働者派遣では派遣先と労働者の間に労働契約は成立しませんが、出向では出向先と労働者との間に労働契約が成立し、二重(出向元と出向先の両方)の労働契約が成立します。
「二重の労働契約」とは、労働契約上の権利義務が“重複して”出向元と労働者間、出向先と労働者間に存在しているというのではなく、労働契約上の権利義務が出向元と労働者間、出向先と労働者間に“分かれて”存在しているという関係です。
では、何が出向元と労働者間に存在し、何が出向先と労働者間に存在するかは、出向の意味から理論的に決定される部分と、出向元と出向先の間で締結する出向契約によって決定される部分とに分かれます。
通常、労働者の雇用にかかわる部分(社会保険・雇用保険、勤続年数の管理と退職金など)は出向元と労働者間に存在し、労働時間、休憩、休日、有給休暇、災害補償、安全衛生など労務提供を前提とする部分は出向先と労働者間に存在し、賃金の支払い等は出向契約によって支払担当を決めるということになります。
したがって、出向に伴う契約は、
①出向元と出向先との出向契約、
②出向元と労働者間の労働契約、
③出向先と労働者間の労働契約
の3つの契約が必要ということになります。
【出向は業務命令として一方的に命じられるか】
出向は、転勤や職種変更とは違い労務提供に対する指揮命令の主体に変更が生じるため、裁判例などでも出向命令には労働者の同意が必要であるとされています。
ここでいう同意とは、労働者の労働契約締結時の応募意思が、誓約書の存在ないし就業規則の出向規程の存在に関して、転勤より厳格に解される必要があります。
例えば、出向先によって労働条件が著しく不利益であったり、労働契約締結時と出向先の範囲に変動があったりなどするときは、「就業規則によって同意を得ている」とはできないということです。
一方、転籍の場合は、労働契約の解消ですから労働者との個別の同意が必要ですが、出向はそこまでの同意が必要ではないとされています。
したがって、まず就業規則に出向命令権を基礎づける規定を置くことを前提に、
①出向先を特定する、
②出向先における基本的な労働条件を明示する、
③出向元への復帰に関する条項を明示する
などが必要となります。
これらを踏まえて労働者の同意を得ておく(できれば入社時に誓約書をとっておく)ことが必要となります。