労使トラブル110番

固定残業制の有効要件とリスク



Q
会社から退職を迫られているのですが、退職にあたって残業代の未払いを請求したいと思います。
基本給18万円、固定残業代6万円、通勤手当という給与明細書が毎月続いています。残業時間は、1ヵ月50時間以上は毎月あり、休日労働、深夜労働もよくあります。
残業代は6万円に含まれているのでしょうか?



A

【固定残業代制の有効要件】


労働基準法37条は、時間外労働に対して1.25倍以上、休日労働に対して1.35倍以上、深夜労働に対して0.25倍以上の割増率による割増賃金を支払うことを求めています。
この割増賃金に対して、固定残業代制を採用している会社も一定数あります。
この固定残業代制の法律的有効要件について、最高裁は次のような基準を示しています。

(1)明確区分性
明確区分性とは、時間外労働等に対する賃金(割増賃金)と、通常の労働時間に対する賃金とが、「検証」できるように区分されているかというものです。検証できない場合には、割増賃金の支払いが労働基準法37条に従ってなされているかが不明になるため、無効になるということです。

仮に、「基本給に固定残業代が含まれる」という規定になっていると区分されていませんので、区分性の要件を満たしていないことは明確です。ご相談の例では、たしかに基本給部分と残業代部分とが分離されて支給されているため、一見すると区分性は満たしているように見えます。しかし、①固定残業代が一体何時間分の残業代なのかが就業規則その他で明確にされていませんし、事前に何らの説明もなされていないようです。②さらに、時間外労働、休日労働分、深夜労働についての割増賃金それぞれ何時間分ということになるとさらに不明確です。

(2)精算の合意と実態
もし何時間分の残業代であることが明確にされていたとしても、その設定した時間以上に残業した場合は、差額を支給(精算)しなければなりません。その差額の規定も、差額支給の実態も両方ないとすれば、これまた固定残業制は無効とみなされる可能性が大きいです。

1ヵ月50時間の残業をしたとしたならば(休日労働、深夜労働はなかったと仮定します)、労働基準法37条の規定に基づき計算すると、6万円を超える残業代が発生します。その差額分は支給するという規定も、実態もなかったとするならば、固定残業代制は無効とみなされるでしょう。


【固定残業代も割増基礎賃金に算入されるリスク】


以上のとおり、固定残業代制の実質について、就業規則(給与規程)の定め方、給与明細上の記載、実際の運用等を総合的に判断して、定額手当としての固定残業代制が認められず、割増賃金は全く支払っていないものと扱われ、結果として固定残業代も割増賃金計算上の基礎賃金に算入され、請求される可能性があります。

ご相談の事例で、所定労働時間が1ヵ月170時間と仮定し、1ヵ月50時間の残業があったとして計算すると、

Aパターン
基本給18万円÷170時間×50時間×1.25=66,176円

Bパターン
(基本給+固定残業代の)24万円÷170時間×50時間×1.25=88,235円

会社側からすると、Bパターンで計算して請求されるリスクがあるということで、労働者からすると請求することができることになります。これに、休日労働や深夜労働が付け加わるともっと多額になり、1年間だと優に100万円を超す残業代未払いとなります。

なお、裁判となった場合に、実際の残業代請求から固定残業として支払われた額を差し引いた額が未払い残業とされるのか、それとも固定残業制自身が無効である以上残業代請求全額を未払として認めるのかは、判断の分かれるところでしょう。




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