労使トラブル110番
和解書・合意書を作る際の留意点
Q
長く病気休職していた従業員とこの間話し合い、退職することを合意しました。
その際、会社都合による退職扱いとして欲しいとの要望が出され、会社としてもそれを了承しました。
お互いに今後これ以上もめ事のないようにしたいと思いますが、そうした際の和解書なり合意書についてどういう点に注意したらいいのかご教示ください。
A
【ポイントなる点は何か】
お話をお伺いした限り、いくつかの大事なポイントがあるように思います。それを書き漏らさずに、かつ、簡潔に記載することが肝要です。
①何年何月何日付で退職することで合意したのかを明記する。
②退職に当たっての条件を明記する。
従業員は「会社都合扱いでの退職」を希望しているようです。おそらく離職証明書の退職事由の記載内容を「退職勧奨」などいわゆる会社都合扱いとすれば、失業等給付の3カ月間の給付制限がなくなるためだと思われます。その点を確認し、「退職事由を退職勧奨として離職証明書を発行することとする」など、より明確にしてはどうでしょうか。
他に、会社としてもいくつか確認しておくべきことがあります。例えば、
*貸与している制服等の返却
*ご本人の私物等の返却とそれにかかる費用の負担
*社会保険・雇用保険の資格喪失日と保険料の支払方法
*退職金等の支払日
などが考えられます。
【「互いに債権・債務が存在しないことを確認する」という一文の意味】】
残業代トラブルなどでもめたとき、和解した後にさらに「実は別の請求があった」などとあらたな紛争が発生することがあります。
そうしたトラブルを防ぐ一文が「甲と乙との間には、上記以外に一切の債権、債務が存在しないことを確認する」という条項です。
通常、この一文が書かれた和解書があれば、仮に新たな紛争を起こそうとしても「解決済み」という主張が成り立ちます。
また、最後に、「第三者に口外しない」という条項もあった方がいいでしょう。
もちろんこれがあったからと言って口を閉ざすことが100%できるものではありませんが、一定の効果は期待できます。
【例文の解説】
例文に記載したのは、あるハラスメント事件の和解書です。この場合、第三者が入っての調停の結果、加害者側が金銭を支払うことによって和解することとなった例です。ここでも、今後のトラブルの再燃を防ぐため、「互いに債権、債務が存在しない」「第三者に口外しない」という条項を入れてあります。東京都労働局があっせんなどで和解する際のモデル条文にも、この2つの条項が記載されています。
参考例文としてご活用ください。
和 解 書 (例文)
〇〇〇〇(以下「甲」という。)と 〇〇〇〇(以下「乙」という。)とは、今回の紛争について、以下の点につき合意し、和解したので、書面に記すこととした。
記
一、乙は、乙が甲に対して行った行為に関して謝罪し、その意思を甲に金〇〇円を支払うことによって表明することとする。金〇〇円は、本和解が成立した後一箇月以内に、甲が指定する金融機関口座に一括して振り込むこととする。
一、本和解の成立後、甲と乙は、互いに電話連絡、メールのやり取り等を行わないことを確認する。
一、本和解の成立をもって、甲と乙との間には互いに一切の債権、債務が存在しないことを確認する。
一、本件の紛争に関する事項、本和解に関する事項につき、甲と乙は第三者に口外しないことを確認する。
以上合意したので、甲乙互いに本書面を一通ずつ所有することとする。
令和 年 月 日
甲 氏名 ㊞
乙 氏名 ㊞