労使トラブル110番
新型コロナウイルス感染者の休業と感染が疑われる者の休業に対する補償の違い
Q
ご家族から新型コロナに感染したことが判明した従業員を出勤停止としました。
一方、その従業員が昼食休憩の際会話をした数名の従業員がおり、濃厚接触者としてPCR検査を行い、その結果が出るまで出勤停止としました。
PCR検査の結果は陽性ではありませんでした。
感染者の休業と濃厚接触者の休業の扱いはどのようにすればよいのでしょうか。
また、濃厚接触者の中に派遣労働者もいて、派遣会社からは休業手当の支給を要請されましたが、支給しなければならないのでしょうか。
A
【休業手当支払いの要件】
労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならない。」と定めています。
この規定は、労働者の生活保障という観点から設けられたもので、したがって「使用者の責に帰すべき事由」も広くとらえられており、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解釈されています。例えば、取引先の経営破綻による経営難などの事情で労働者を休業させた場合も、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」とみなされます。
「使用者の責」を免れる場合(=休業手当支払義務を免れる場合)とは、不可抗力による休業、具体的には①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であることが要件です。大震災や大水害(今回の九州地方を襲った集中豪雨など)などの天災地変に起因する休業などは「使用者の責」が免れます。
【新型コロナウイルスと休業手当支払い義務】
では新型コロナウイルス感染症による休業の場合はどういう扱いとなるのでしょうか。行政解釈では、感染症法に基づき就業制限の対象となった疾病による休業については、「使用者の責に帰すべき休業」には該当しないとされています。新型コロナウイルスは、感染症法に基づく都道府県知事による就業制限の対象疾病となっていますので、感染者を休業させた場合の休業手当支払い義務はありません。
【感染が疑われる者を休業させた場合は?】
一方、濃厚接触者や発熱などの症状により新型コロナウイルスに感染した疑いがある者を休業させた場合はどうでしょうか。この場合は、就業制限の対象となっていない者を使用者の自主的判断で休業させる場合となりますから、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。
この点では、アルバイトやパートタイム労働者、派遣労働者も同じ扱いとなります。正職員に休業手当を支払って休業させると同時に、アルバイトや派遣労働者も休業させた場合は、休業手当を支払わなければなりません。
【雇用調整助成金なども活用して現実的対策を】
そうはいっても事業そのものの継続が危ういとか休業させなければ事業が持たないなどの事情をかかえている場合もあります。その場合は、雇用調整助成金も活用すればかなりの額が助成金で賄われますし、対象期間も9月まで延長されました。
また、妊婦さんなど感染リスクがこわいなどの事情で出勤そのものを躊躇される方もいます。一般的には従業員が自主的に休んだ場合は通常の病欠と同じ扱い(その分の給与を控除するなど)をしても法律上はかまわないわけですが、政府は妊婦さんに対する有給の休暇制度を設けた事業主に対する助成制度を設けています。また、自宅でできる作業であれば、テレワーク制度を導入することも考えられます。
こうした諸制度も積極的に活用するとか、特別の休暇制度を設けるなど、現実的な対策を検討してください。