労使トラブル110番
同一労働同一賃金と休暇制度の相違について
Q
弊社では正社員就業規則で慶弔休暇制度を設けています。
親族の死亡や本人の結婚などに対して一定数の休暇を有給で与えています。
非常勤社員(定年後再雇用社員も含む。1年単位の有期雇用者)には与えていません。
同一労働同一賃金制度の適用が始まっている中で、どのように考えればいいでしょうか。
A
【同一労働同一賃金への対応の原則】
従来のパート労働法と労働契約法第20条を一体化させ、「パート・有期法」が成立し、その施行は大企業が2020年4月、中小企業が2021年4月となっています。背景には、労働契約法20条(有期雇用であることを理由に差別的待遇をしてはいけないという条文)違反を問う裁判があちこちで行われたという事情があります。
基本的考え方は、①職務の内容、②当該職務の内容および配置の変更の範囲、③その他の事情という3つをもって、労働条件の不合理性を問うというものです。また、労働条件の相違について、非正規労働者への説明義務が明記され、都道府県労働局に紛争の調停制度も設けられます。政府は何が不合理なのか、あるいは不合理とまでは言えないのか、についてガイドラインを発表していますが、それぞれの企業ごとに制度の趣旨、労働組合との交渉の経過、代替措置の有無等千差万別といえますから、一概にこの制度はOK,この制度はダメとも言えません。労働者が納得できるかどうかをよく考えて対応することが大切です。
【最近の裁判例では?】
労働契約法旧20条違反をめぐる2つの最高裁判決(長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件)が出された後も、いくつか参考になる裁判が行われています。
<日本郵便(休職)事件(東京高裁平成30.10.25)>
この事件は、時給契約社員(6ヵ月以内の有期)と正社員(無期)との間で、私傷病による病気休暇と休職制度の有無の相違が存在することについて、労働契約法20条の「不合理」には当たらないとされた例です。
判決では、病気休暇・病気休職の趣旨は「正社員として継続して就労してきたことに対する評価の観点、今後も長期にわたって就労を続けることによる貢献を期待し、有為な人材の確保、定着を図るという観点、生活保障を図るという観点」があると指摘しています。一方、時給契約社員は「期間を6ヶ月以内と定めて雇用し、長期継続した雇用が当然に想定されるものではなく…直ちに当てはまるものとはいえない。この結果として、相違を「不合理であると評価することができるとまではいえない」と結論付けました。また、「職務の内容」の相違について、「期待される習熟度やスキルは異なり、(正社員は)勤続年数を重ねた後に応用的な能力、後輩への助言の能力等が求められるという違いがあ(る)」としています。背景には、時給制契約社員の大半が採用後短期間で退職している(3年以内の退職が7割)という実態もあるようです。
<井関松山製造所事件(高松高裁令和元年7.8)>
この事件は、契約期間6ヵ月の有期契約を更新している有期契約労働者と、無期契約労働者との間で、賞与、家族手当・住宅手当・精勤手当の支給の相違があることについて、賞与については労働契約法20条の「不合理」には当たらない、家族手当・住宅手当・精勤手当については「不合理」に当たるとされた例です。
賞与について「労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るもの」とし、「就業規則や労働契約において支給の定めを置かない限り、当然に支給されるものではないから…使用者の経営及び人事政策の裁量判断によるところ」とし、「その他の事情」とし考慮できるから、経営者が有期雇用者には寸志を支払うというのも相応の合理性があると述べています。一方、家族手当・住宅手当等については支給の趣旨から相違は「不合理である」とされています。
【慶弔休暇の相違にどう対応するか】
ご質問の慶弔休暇ですが、もちろん非正規社員に正社員と同様の休暇を与えるという判断もありうると思います。同時に、就労日数が少ないという事情があるのであれば、付与日数を就労日数に応じて比例的に付与するという考え方もありうると思います。また、もともと長期的就労を予定している正社員に対する措置と会社が判断するなら、雇用期間が不安定な者に対しては慶弔休暇の対象としないという判断もありうると思います。
慶弔休暇の趣旨と、非正規社員の就労実態によって判断するのが適切ではないでしょうか。