労使トラブル110番

民法改正と身元保証契約の見直し



Q
弊社は入社時に提出させる書類の一つとして、身元保証書があり、併せて保証人の本籍地と職業、本人の本籍地を記載した住民票を提出させるようになっています。民法が4月から変わり、身元保証契約に関する事項が変わったと聞きましたが、いままでの制度を変更する必要がありますか?



A

【「身元保証ニ関スル法律」と改正民法】


身元保証契約とは、使用者と被用者の雇用関係を前提に、被用者が使用者に損害賠償責任を負う場合に、身元保証人がこの債務を被用者と連帯して保証する、身元保証人・使用者間の契約のことをいいます。もともと保証人にあまりにも過大な責任を負わせるべきではないという観点から、身元保証ニ関スル法律により次のような制限が加えられています。

① 保証期間の制限…期間の定めのない契約の場合3年間、期間を定めた場合5年間(更新も可能だが、更新期間も5年間まで)
② 使用者の保証人への通知義務…使用者は、㋑保証人に責任が発生する恐れがある場合や、㋺任地・任務変更により保証人の責任加重又は監督困難になった場合、遅滞なく保証人に通知すべき
③ 保証人の将来に向けての解除権…保証人は、上記(②)の通知を受けた時や、上記㋑㋺の事実を知った時は、将来に向けて身元保証契約を解除できる


4月入社の従業員から改正民法が適用されます。

これに加え、改正民法(令和2年4月1日施行)により、個人根保証契約は極度額を定めなければ効力は生じないとされました。根保証契約とは、「一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証債務」のことをいいますが、身元保証契約も個人根保証契約の一種です。したがって、今後は賠償額の上限を定めない身元保証契約は契約自体が無効となるのです。2020年4月入社の従業員から改正民法が適用されます。


【賠償額の上限と裁判所の判断】


いうまでもなく賠償額の上限額は、会社と身元保証人の合意した額となります。合意さえすれば1億円でもいいわけですが、こんな大金では合意は成立しないでしょうし、従業員も頼める保証人がいないため入社を躊躇してしまいます。かといって10万円、20万円ではあまり意味のない契約となります。やはり、100万円、200万円、せいぜい従業員の年収の1年分以内程度という額になるのではないでしょうか。

また、仮に賠償額の上限額を互いに合意して契約が成立したとしても、会社が請求した額通り保証人が支払うとは限りません。裁判となれば、賠償額を判断するのは裁判所です。裁判所は、①保証人の支払能力、②保証人が本人の仕事場所や仕事内容を把握していたか、③企業側の監督責任、④企業と従業員の過失割合などを総合的にみて判断することとなります。


【身元保証制度の形骸化のもとで】


多くの会社では、「何かのときに…」「念のため…」という感覚で身元保証契約を交わしているか、あるいは緊急連絡先という位置づけで従業員と使用者との間で「身元保証書」を提出させている(つまり会社と保証人との間では身元保証契約を取り交わしていない)という例も少なくありません。

機密情報や個人情報を取り扱う部門や金融関係など職種によっては厳格な身元保証契約の取り交わしが必要となります。一方、多くの職種では、個人情報等の守秘義務を課す「誓約書」を従業員に提出させれば目的は果たせる、後は緊急連絡先を把握しておけばいいという場合が多いのも事実です。逆にあまり厳格すぎると、採用の障がいとなったり、使用者と従業員との雇用関係のひずみが生まれかねません。

会社の実態に合わせて身元保証制度をどういう位置づけとするのか、今回の民法改正をきっかけに検討してみる必要があります。


【採用時の提出書類の留意点】


上記のような検討を踏まえて、採用時の提出書類は、身元保証書又は緊急連絡報告書にとどめるのか、身元保証契約の締結を求めるのかを決めてください。

なお、ご質問にある「本籍地を記載した住民票」の提出については、行政指導により、戸籍の記載した住民票や戸籍謄本・抄本など戸籍に関する書類を提出させることはできないとされています。戸籍には、さまざまな知られたくない個人の秘密が記載されているためです。通勤手当や現住所の確認のため必要な場合は、「住民票記載事項証明書」の提出を求めるようにしてください。


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