労使トラブル110番
年次有給休暇の買い取りは6割程度でもいい?
Q
ある従業員から、「定年後、再雇用してもらうか、それとも、有給休暇を買い取ってもらえるならそれで退職してしまうか、どちらかにしたいと考えている」という話がありました。いままで有給休暇の買取などしたことがなく、もし買い取るなら余った有給休暇を6割程度で買い取れないかと思っています。こういうことは許されるのでしょうか。
A
【年休買い上げが禁止されているのはなぜ?】
もともと年次有給休暇というのは、日本も批准しているILO(国際労働機関。国連の専門機関の一つ)条約に基づく制度です。西欧諸国では、通常20日~30日間まとめて旅行などをするバカンスの制度として定着しています。労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、労働基準法39条で使用者による付与義務を定めています。
こうした見地から、労働者の休息する権利をお金に変えること(年休の買い上げ)は禁止されています。通達(昭和30.11.30基収4718号)では、「年休の買い上げを予約し予約された日数に付いて年休取得を認めないことは、年休の保障(労働基準法39条)に反する」としています。したがって、労働者には年休の買い上げを請求する権利はなく、使用者には買い上げる義務もありません。
【年休の買い上げが認められる場合】
一方、先ほどの通達では、「結果的に未消化の年休日数に応じて手当を支給することは違法ではない」とも述べています。「未消化の年休」とは次のような場合を指します。
(1)退職時に消化できなかった年休
退職とともに年休の権利は消滅します。そのときに未消化の年休が発生する場合があります。
(2)時効により消滅した年休
年休の消滅時効は2年です。通常、就業規則で「前年度の年休は翌年度に限り繰り越される」と定めてありますが、前々年度の未消化分は時効で消滅しています。
(3)法を上回る付与日数
法律では、最低、採用後6ヵ月勤務した後に10日間、その後1年経過するごとに1日または2日の日数を追加して付与しなければならないとされています。会社によっては、この法律の基準を上回る日数を付与している場合が少なくありません。この法律の基準を上回る分を買い上げることは法に違反することにはなりません。
【退職時に生まれる矛盾の解決の仕方】
しばしば退職時には、従業員が次の人生を歩むため、転職などさまざまな私的事情があるものです。その解決のために有給休暇をうまく活用したいとか、ある程度の資金を準備しておきたいとかの要望が生まれることがあります。会社としては、退職前に仕事の引継ぎも含めてきちんと行ってもらいたいと考えるでしょう。その結果、従業員の要望と会社の考えが相対立してしまい、有給休暇の消化にしわ寄せがくることもあります。
こうした矛盾を解決する一つの方法として「未消化の年休」に対して「日数に応じて手当を支給する」方法もあり得ます。もちろんこれはあくまでも任意の手段ですから、従業員と会社とがよく話し合って解決すべきことです。ですから、ご質問のような通常の賃金の6割程度の手当を支払うことで解決することもあるでしょうし、「未消化の年休」の日数のカウントをどこまで遡ってカウントするかも任意です。結局、互いの納得、合意で解決するしかないのです。
【使用者による5日の付与義務が法律で定められた】
2019年4月から、年休取得を促進するために、10日以上の年休を付与された労働者の年間5日の年休については、使用者が時季を定めて与えなければならないという、使用者付与方式が導入されました(労働基準法改正)。
これはもともと日本の年休取得率が5割を下回っていることが国際的な非難の対象となるなかで生まれた制度です。本来、付与された年休をその年度内に100%消化するのが当然の姿です。今後、未消化を残さないような「働き方改革」の進展が望まれます。