労使トラブル110番
派遣労働者の同一労働同一賃金の対応
Q
弊社はいくつかの会社にシステム設計技術者及びソフトウエア開発技術者の業務に従事する従業員を派遣しています。
ある派遣先からは「労使協定方式を採用する派遣元の会社のみから派遣を受け入れることとする」との通知が届いており、弊社もそうしたいと考えているのですが、政府の通達で示されている政府の統計をそのまま利用すると、現行給与支給額とかなり乖離してしまうのですが…。
A
【派遣労働者の同一労働同一賃金の2つの待遇決定方式】
いわゆる「働き改革法」に基づく派遣法の改正により、2020年4月までに派遣労働者にも同一労働同一賃金が求められることになりました。
派遣労働者の待遇決定方式は、次の2つの方法のいずれかを選択しなければならないとされています(令和元年7月8日職発0708第2号。以下「通達」。)
(1) 派遣先に雇用される通常の労働者との間の均等・均衡待遇の確保
(2) 一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保(以下「労使協定方式」。)
上記2つの方式のうち、多くの会社は(2)の労使協定方式を採用するようです。
もともと(1)の方式が原則とされたのですが、この方式だと派遣先が変わる都度に派遣労働者の給与額も変わってしまうことになり、労働条件の不利益変更を避けなければならないという事由から無理がありました。そこで労使協定方式も選択肢として出されたという経過をたどったわけです。ところが労使協定方式にも次のような条件があり、対応に苦慮している派遣元が多いのが実態です。
【労使協定方式における賃金決定の要件】
労使協定方式をとる場合の派遣労働者の賃金決定の方法は次の2つの要件を満たさなければならないとされています。
(1) 「派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金の額」と同等以上であること(時給換算した額を比較することとする)
(2) 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に改善されるものでなければならない(どの事項を勘案するかは労使に委ねられる)
<基本給・賞与・手当等>
以下の「①×②×③」で計算された額です。
①職種別の基準値:以下のいずれかの統計を採用すること(その統計は発表されています)
イ:賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した賃金
ロ:職業安定業務統計の特別集計による求人賃金(月額)の下限額の平均
②能力・経験調整指数:「勤続0年」を100として算出された指数(表が出されています)
③地域指数:派遣就業場所の地域の物価等を反映するため、算出した指数
<通勤手当>
通勤手当については、「実費支給により同等以上を確保する」か、「一般労働者の通勤手当に相当する額(=1時間当たり72円)と同等以上を確保する」かを労使協定で定める
<退職金>
退職金については、以下の3つのいずれかを労使協定で選択します。
①退職手当制度で比較する
②一般労働者の退職金に相当する額(一般基本給・賞与等×6%)と同等以上を確保する
③中小企業退職金共済制度等に加入する場合
【統計に基づく賃金額と雇用条件に基づく賃金額とが食い違うとき】
以上の計算式に基づき算出された賃金額と、派遣元が派遣労働者を雇用したときの雇用契約に基づく賃金額とが大きく食い違う場合が生まれます。一般に、政府の統計により算出された賃金額の方が雇用条件より多額となってしまうケースが多いようです。
厚労省が発表している「労使協定Q&A」では次のように述べていますので参考にしてください。
問2-8 能力・経験調整指数について、例えば、勤続5年目の協定対象派遣労働者については、必ず「5年」の指数を使用しないといけないのか。
(答)能力・経験調整指数の年数は、派遣労働者の勤続年数を示すものではないため、ご指摘の場合に、必ず「5年」にしなければならないものではない。
例えば、職務給の場合には、派遣労働者が従事する業務の内容、難易度等が、一般の労働者の勤続何年目に相当するかを労使で判断いただくことになる。