労使トラブル110番
競業避止義務違反が問われる範囲と限界
Q
建設業を営んでいます。
親会社(建設ブローカー)が弊社の従業員に対して、弊社に断りもなく勝手に連絡し、現場に直接動員するようなことが続いています。
その建設ブローカーはこの10年近く単価も据え置かれたままで不信感を持っています。
一方、その従業員も、弊社内の他の従業員に声をかけ、新会社を設立する動きが生まれています。親会社とその従業員それぞれに対してどのように対応すればいいでしょうか。アドバイスをお願いします。
A
【建設ブローカーとの縁を切る】
どうも不穏な動きの背景にはその建設ブローカーの動きがあるようです。
もしその会社と縁を切っても、他から仕事が入るような条件があるとすれば、長期的にみて縁を切った方がよいように思います。
契約書を拝見すると、「外注雇用契約書」となっていますが、「外注雇用」などという法律関係は存在するはずもなく、あくまでも貴社はその会社に協力しているという対等平等な関係です。
会社間の対等平等な関係において、相手先が信用を裏切る行為をしている以上、協力を打ち切る旨の通告をすれば解決する問題です。
配達証明で、取引停止の通告書を送ればいいでしょう。
【在職中の従業員の競業避止義務】
問題はその従業員にどう対応するかです。
在職中の従業員には競業避止義務があります。
これは在職中という条件のもとにおいては、特別の約束や就業規則の規定がなかったとしても、競業他社の運営に関与することは、営業秘密の漏えいや顧客の奪取によって使用者の正当な利益を不当に侵害する(またはそのおそれが高い)行為ですから、それを控えることは、信義則上当然とされるからです。
まして競業他社の設立を、他の従業員を引き抜いたりして会社に打撃を与える行為は、競業避止義務違反として懲戒処分の対象となり、それによって会社に打撃を実際に与えた場合は損害賠償責任も発生します。
日本コンベンションサービス事件(最高裁平成12年6月16日の判決)は、まさに労働契約継続中の競業避止義務違反の事件です。この事件では、従業員が在職中から同種の事業を営む新会社の設立準備を進め、新会社を設立し、他の労働者を勧誘してこれらとともに退職し、その直後から競業行為を行いました。
会社はその従業員を懲戒解雇するとともに、損害賠償を請求したわけですが、最高裁は懲戒解雇処分を妥当とし、かつ、400万円の損害賠償請求を認めました。
【退職後の競業避止義務】
これに対して退職後の競業避止義務については、より厳格な制約が課されます。
退職後の競業避止義務は、守秘義務と異なり、労働者の職業活動それ自体を禁止する義務であり、職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約度が極めて高いことから次のような厳格な審査の対象となります。
第一に、誓約書なり就業規則なりの明示の根拠が必要であること。
第二に、競業避止義務の要件として、
①労働者の地位が義務を課すのにふさわしいかどうか(役職員などと一般従業員とでは自ずと義務が違ってくる)、
②正当な秘密の保護を目的とするなどの必要性があるかどうか(中枢技術者と一般従業員とでは違いがある)、
③対象職種・期間・地域からみて職業活動を不当に制約しないこと(5年などは長すぎるなど)、
④適切な代償が存在すること(退職金の増額など)
の4点が総合的に判断されます。
その結果、職業選択の自由を不当に制約し公序に反するので無効とされた裁判例も多いです。
【厳しく戒めることが肝心です】
ご相談のケースは、在職中の従業員が、他の従業員も誘って、新会社を設立しようと動いているわけですから、それをやめなければ懲戒解雇処分とせざるを得ないことを通告し、直ちに中止するよう戒めることが肝心です。