実績・相談例
労使トラブル110番
在籍出向の契約の結び方と留意点
Q
弊社の子会社の事務長の給与を弊社が支給していたのですが、この度、弊社の監査役から「出向としての契約関係がないまま給与を支給するのはおかしいのでは?」という意見が出されました。
どのように対応すればよいでしょうか。
A
出向の意義とタイプ
出向とは、労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所に一定期間にわたって業務に従事することをいいます。
転籍は単に勤務場所の変更ですが、出向は労務提供に対する指揮命令の主体が変更する点で、転勤とは違います。
ご質問のケースも、子会社の事務長ということですから、子会社での業務を子会社からの指揮命令のもとに遂行していると思われますので、出向となります。
(なお「移籍出向」は籍を移す(転籍)ですから、雇用関係が終了していますので、一般の出向とは区別する必要があります。)
出向はその目的によっていくつかのタイプに分かれます。
①企業集団統合型…出向元がグループ内の各社を1つの企業集団に統合するため
②出向先強化型…出向先となるグループ会社を育成強化するため
③従業員排出型…若年、中堅層の昇進を優先するため中高年齢者を企業外に排出する
④教育訓練型…出向先での教育訓練の提供を目的
ご質問のケースは、多分②の出向先強化型の出向と思われます。
出向と派遣との違い
出向は出向元が、雇用する労働者を出向先において出向先の指揮命令を受けて、出向先に労務を提供させることになります。
派遣も、派遣元が雇用する労働者を派遣先において派遣先の指揮命令を受けて労務を提供させます。
したがって、出向と派遣は非常に酷似した関係が成立することになります。
では一体何が違うのでしょうか。
派遣では派遣先と労働者との間に労働契約が成立しませんが、出向では出向先と労働者との間に労働契約が成立し、二重の労働契約が成立します。
この二重の労働契約が成立するという点が違うのです。
この二重の労働契約の意味は、労働契約上の権利義務が出向元と労働者間、出向先と労働者間に分かれて存在するという関係です。
一般に、出向元と労働者との間は、在籍に伴う基本的な労働関係、たとえば勤務期間の通算と退職金制度の適用、休職制度や懲戒処分制度の適用、雇用保険や社会保険の適用などが労働契約上の権利義務関係となります。
一方、出向先と労働者との間は、日常的な労務指揮の服従関係が権利義務関係になります。
3つの契約の締結及び労働基準法の適用関係
出向に伴い締結する契約は次の3つになります。
①出向元と出向先との間で結ぶ出向契約
・出向元と出向先との間で法人として確認・合意事項を定めます
・とくに金銭上のやり取り(賃金支払義務者をどちらにするか、保険料や通勤費等の経費をどちらが負担し、金銭上の負担・支払はどうするかなどです)
②出向元と労働者との間で結ぶ出向契約
・出向に伴い賃金等の支払をどうするか
・労働条件の差異があった場合の補償をどうするか
・出向期間、退職金、懲戒処分等を確認する契約です
③出向先と労働者との間で結ぶ雇用契約
・労働条件の細かな取り決めを行います
一般的に、出向元と出向先の労働基準法の定めの適用関係は次のようになります。
もちろんこの範囲内で、あるいは範囲を超えた例外も含めて細かな取り決め、契約を出向元・出向先・労働者の3者の間で行うことになります。
適用事項
出向元・出向先の責任
総論
出向元・出向先両方
労働契約
出向先
賃金
支払担当者(出向契約の定めに従う)
労働時間・休憩・休日・有給休暇
出向先
安全・衛生
出向先
災害補償
出向先
就業規則
出向元・出向先
雑則
出向元・出向先両方(労働者名簿は出向元、賃金台帳は支払担当者)
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