労使トラブル110番
仕事と治療の両立支援とその限度
Q
弊社では現在2人の障害を抱えている方の就労継続の可否等を検討しています。
1人は脳出血により左半身不随となっている方で身体障害者等級2級の手帳を持っておられる方です。
もう20年以上障害を持ちながら就労継続している方です。
もう1人は、緑内障により視力、視野の障害になった方で同じく身体障害者等級2級に該当すると診断されています。
こうした方の就労継続の可否及び就労継続する場合の留意点などについてアドバイスいただきたいのですが…。
A
厚労省がガイドラインを発表
平成31年3月、厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(パンフレット)を改定、発表しました。
近年、「診断技術や治療方法の進歩により、かつては『不治の病』とされていた疾病においても生存率が向上し、『長く付き合う病気』に変化しつつあり、労働者が病気になったからと言って、すぐに離職しなければならないという状況が必ずしも当てはまらなくなってきている」。
「しかしながら、疾病や障害を抱える労働者の中には、仕事上の理由で適切な治療を受けることができない場合や、疾病に対する労働者自身の不十分な理解や、職場の理解・支援体制不足により、離職に至ってしまう場合も見られる」状況があります。
労働者が業務によって疾病を憎悪させることなく治療と仕事の両立を図っていくことは、健康経営やワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ推進という観点からも、労働者に安心感やモチベーションを向上させることによって多様な人材の活用による組織や事業の活性化を図る点からも意義ある取り組みです。
両立支援を行うに当たっての留意事項
両立支援を行うに当たっては次の点に留意するようパンフレットで強調しています。
① 安全と健康の確保…疾病の憎悪や再発・労働災害が生じないよう、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮など適切な就業上の措置や配慮を行う
② 労働者本人により取組…労働者本人が主治医の指示等に基づき治療を受け、服薬すること、適切な生活習慣を守ること
③ 労働者本人の申出…労働者本人から支援を求める申し出がなされることが始まりです。同時に事業場として、申出が円滑に行われるようルールを作成し周知すること、研修などを通じて意識啓発を行うこと、相談窓口など整備すること
④ 治療と仕事の両立支援の特徴を踏まえた対応…労働者は入院や通院等により一時的に業務遂行能力が低下したりします。それを踏まえた就業上の措置が必要です
⑤ 個別事例の特性に応じた配慮…個人ごとにとるべき対応や配慮が違ってきます
⑥ 個人情報の保護…健康情報を取り扱う者の範囲や第三者への漏えいの防止も含めた体制を整備します
支援にも限度がある
かといってすべての方を支援できるかというと自ずと限度があります。
この点では、最高裁の片山組事件の判決(平成10年4月9日)が参考になります。
この事件は、土木建築施工・請負等を行う会社に雇用され、建設工事現場における監督業務に従事していた者が、バセドウ病に罹患し現場監督業務ができなくなり、会社は休職し治療に専念するよう命じたわけですが、本人が事務作業ならできる旨を医師の診断書と併せて申し出たにもかかわらず、会社は拒否したため、賃金の請求を求めて提訴したというものです。
最高裁の判断は、
①労働者が職種や業務内容を特定せず労働契約を締結した場合においては(このケースはそうだった)、
②その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、
③当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務に労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。
④(差戻審判決では)本人に実行可能な事務作業があり、これに配置する現実的可能性があったとして、賃金請求権が認められた
というものです。
雇用形態が職種等を問わない形態で、会社の規模や人事異動の実情等を考慮して、他職種に配置される現実的可能性があるのであれば、そうすべきだという判断です。
逆に言えば、職種等を限定した雇用であった場合や、会社の規模等が小さかった場合は別の判断があり得るということです。
また、会社に病者や障害者のために新たな職種を作り出す義務までを課しているわけでもありません。
以上を参考に、お2人の個別の事情と職務配置の可能性についてご検討ください。