労使トラブル110番
基本給連動型退職金制度がもたらす歪み
Q
弊社の退職金制度は、退職時の基本給に勤続年数を乗じて算出することを基礎とする制度となっています。
制度変更を考えたいと思っているのですが…。
A
旧い会社に多い基本給連動型退職金
戦後長い期間、日本は年功序列制度を採用してきました。
年功序列制度では、年齢に応じて基本給がアップする仕組みで、それに伴い退職金も「退職時の基本給×勤続年数(または年齢)に応じた乗率×退職事由による係数」という計算式をベースに算出する制度が大半でした。
ですから歴史のある会社であればあるほど基本給連動型の退職金制度となっているケースが多いといえます。
給与体系の歪み
「退職時の基本給」に連動した制度で、年功序列型賃金を採用していると、長く勤務している人ほど退職時の基本給が高くなりますから退職金倒産を招くリスクを経営者は考えざるを得ません。
それを避けるため、なるべく基本給をあげたくないという動機が生まれがちです。
その分、給与体系がいびつになってしまっているケースを多く目にします。
基本給以外に「職務給」「職能給」「資格給」など基本給に類似した給与費目を作ったり、家族手当、住宅手当、営業手当等の手当類を多くするなどです。
なかには扶養する家族がいないにもかかわらず家族手当を支給しているなどという例もあります。
こうした給与体系だと、従業員から「会社は何を評価して自分の給与を決めているのかわからない」という不満が生まれがちです。
頑張りの途中経過が評価されない
また、あくまでも「退職時の基本給」さえ高ければ退職金も高くなるという制度だと、例えば中途採用でも年齢に応じて高い基本給が設定されれば、退職金も高くなります。
若い労働者からすれば、入社してから退職するまでの過程で頑張るというモチベーションが生まれないということにもなるでしょう。
これではいくら「会社の発展が従業員の幸せにもつながる」と掛け声をかけても響かないということになりかねません。
ポイント制退職金にするだけでもかなり違う
退職金をどういう制度にするかは法律的に規制があるわけではありませんから、会社が任意に制度設計できる制度です。
例えば、「基本給連動型」を辞めて、一定のポイント単価に勤続年数などを乗じる制度にするだけでも給与体系の歪みの是正につながります。
いくらのポイント単価にするかも会社が任意に決められるわけですから、例えば、40年間勤務した場合のおおよその退職金支給予定額を決めて、そこから逆算してポイント単価を決めるというやり方をとればいいだけのことです。
一般に給与体系をシンプルにすることが、従業員にとっても何によって給与が決まるのかわかりやすいという効果をもたらすものです。
もちろん会社の考え方により一定の生活保障的な家族手当等を支給することは問題ないのですが、複雑すぎないことが肝心です。
人事等級制度と連動したポイント制度も検討
一定規模の会社では、職能や職務あるいは役割などを基準に等級制度を設定しているところがありますし、今後そういう制度を検討している会社もあるでしょう。
新入社員から管理職、さらに管理職のなかでも係長クラスから部長クラスまでを一定の格付けを行う制度です。
その等級ごとにポイント数を設定し、その所属等級に在籍している年数に応じてポイントがたまり、最終的に退職時にポイント数に応じた額を支給するという制度を採用している企業も増えています。
これは人事考課と相まって従業員のモチベーションをアップさせるシステムの一つです。
公正で透明な制度と運用に心掛けなければ、人事考課が逆に不満のもとになるリスクが伴うことに気を付けなければなりませんが。
制度移行の留意点
現行の制度から新しい退職金制度に移行する際に気を付けなければならないのは、現行制度に基づく退職金債務を新制度にきちんと引き継ぐことです。
つまり、移行時点での現行制度に基づく退職金債務をきちんと計算し、新制度の出発点の退職金債務として確定することです。
また、移行時には従業員への説明と納得を得ることが欠かせません。