労使トラブル110番

年俸制を採用していれば残業代は支払わなくてよいか?



Q
弊社は年俸制を採用しており、毎年4月に、勤続年数や業績、能力水準をもとに、年俸額を決め、従業員と雇用契約を締結しています。
先日ある従業員から、「残業代を2年分支払ってほしい」との請求書が届きました。
いままで残業代を支払ったことはないのですが、年俸制でも残業代は支払わなければならないのでしょうか。


A


年俸制も労働法の規制を受ける


年俸制は労働者に対して支払う賃金を年単位で決定する制度です。
月単位で決定する月給制、日単位で決定する日給制、時間単位で決定する時給制、仕事の結果で決定する出来高制などさまざまある給与制度の一つに過ぎませんから、当然労働関係法令の規制を受ける賃金であることに違いはありません。

年俸も「賃金」である以上、労働基準法第24条に定める「毎月1回以上・一定期日払の原則」の適用を受けます。
そのため、年俸を少なくとも12に分割して毎月1回は支払うことが必要となります。
また、法定労働時間を超えた時間や休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払い対象ともなります。


年俸制における割増賃金の計算


賃金総額を年を単位として決めるのが年俸制ですから、その総額の中に月例賃金がいくらで、賞与や諸手当がいくらかということは不明とならざるを得ません。
仮に、従来は月例賃金制度で、ほかに賞与や諸手当を支給していたという経過があり、年俸制にはそれを取り込んだという経過であったとしても同じことです。

したがって、「年俸額÷12」で月額賃金を算出し、「月額賃金÷1ヵ月平均所定労働時間」で1時間あたりの賃金単価を算出し、それに1.25(時間外割増)なり1.35(休日割増)なりの割増率を乗じて割増賃金額が算出されることになります。

ということは、月給制や日給制・時給制を採用するよりも年俸制を採用した方が、月額賃金が大きくなり、割増賃金額も大きくなるという結果になります。
管理監督者(労働基準法41条の2)や裁量労働制(労働基準法38条の3,4)の適用を受ける労働者であれば割増賃金の対象外となるため年俸制を適用する意味はあるものの、一般の従業員を対象に年俸制をとることは、むしろ過大な残業代出費を招くこととなります。


割増計算の「除外賃金」との関係


次に、労働基準法37条5項及び労働基準則21条で定められている、割増賃金の計算基礎に算入されない除外賃金との関係を検討してみます。
そこで定められている「除外賃金」は次の通りです。

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① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

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①~⑤が割増賃金の算定基礎から除外されるのは、労働の内容とは無関係な個人的事情によって支払われる性格の手当であるため、こうした事情によって割増賃金額が変わることは不合理であるという理由です
(したがって、住宅費用の多寡に応じて支給額が変わること、扶養家族の有無・数に応じて支給額が変わることが除外の条件です。一律に一定額を名目だけ住宅手当・家族手当として支給する場合は除外対象となりません)。

⑥の「臨時に支払われた賃金」とは、私傷病手当、見舞金、結婚手当など突発的な臨時的な事由により支給されるものを指します。
⑦の「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、賞与とか精勤手当のようなものを指します。

年俸制において、月額給部分と賞与手当を合計して年俸額を確定している場合、例えば、「月例賃金×12カ月分+賞与4カ月分」と計算した額を年俸額としているようなケースです。
このケースで、賞与4カ月分は⑦の「賞与」として「除外賃金」に該当するのかということです。
しかし、あくまでも年俸制を採用するならば、4カ月分の賞与部分は除外賃金には該当しません。


以上から、ご相談の例では、従業員からの残業代請求は正当なものであるといえます。
会社として正確な残業時間を計算して、支給しなければなりません。もしその従業員が監督署に申告するなどした場合には他の従業員の分も問題となるでしょう。

これを機に給与制度や給与規程を見直されることを合わせてお勧めします。


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