労使トラブル110番

パワハラといえるか? その判断基準は?



Q
新人の職員が研修中に受けた行為について、パワハラを受けたと主張しています。
具体的には、「繰り返し『太った?』と皆の前で言われた」、「陰口をたたかれた」、「自分にだけ厳しい言われ方をされた」、などという主張です。
一体どこまでがパワハラであり、どこからはパワハラとはいえないのか、その分岐点というのはあるのでしょうか?


A

パワハラの定義

 
セクハラについては男女雇用機会均等法などで法律的な定義があるのですが、いまのところパワハラに関する法律な定義は存在しません。
あるのは行政による定義付けです。
厚生労働省が有識者等による円卓会議での検討を踏まえ、平成24年1月に「提言」を発表し、それが一般的にパワハラの定義付けとして使われています。
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

この定義について、「提言」ではいくつかの留意点を述べています。
① 「職場内の優位性」とは…「上司と部下」の関係が典型的だが、先輩・後輩間や同僚間の場合もあること。
② 「業務の適正な範囲」とは…基本的には客観的に判断される(「指導のつもりだった」などの主観的判断は通用しない)ものだが、ケースによっては企業風土や企業規模などによって個別に判断される場合もあること。

典型的な行為類型


 また「提言」では、典型的な行為類型として次のような形態があるとしています。
もちろんあくまでも典型的な類型にすぎず、これがすべてというわけではありません。
身体的な攻撃 暴行・傷害
精神的な攻撃 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
人間関係からの 切り離し 隔離・仲間外し・無視
過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
過小な要求 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
個の侵害 私的なことに過度に立ち入ること


業務上の指導と「精神的な攻撃」の違いとは?


 よく相談される例として、上司の側は「業務上の指導として行った」と主張し、部下の側は「パワハラを受けた」と主張した場合にどう判断するか迷ってしまうというものです。

この点で参考になる裁判例が三井住友海上火災保険上司事件の東京高裁判決(平成17年4月20日)です。
これは部下のミスを叱責するメールを、職場の全員数十名に対して送信したという事件です。
本来指導は、個別にマン・ツー・マンで丁寧に行うべきものであり、こうしたやり方は指導とはいえず、部下への非難を目的とする「精神的な攻撃」に該当するものであるとし、損害賠償を命じました。
 
ご相談の例でも、「最近太った?」ということを本人の健康を気遣う立場から聞くのであればそれ自身は問題ないのですが、そうではなく、太っているという身体的特徴をことさらに繰り返し、皆の前でいうことによって恥ずかしい思いにさせるものであればハラスメント(=精神的な攻撃)行為に該当することになります。
また、「自分にだけ厳しい言われ方をされた」という点についても、例えば同じミスがあっても他の者に対してはとくに注意もされていないのに、その人についてだけことさら厳しい言われ方を公然とした形で繰り返し行われたとするならば「精神的な攻撃」あるいは「人間関係からの切り離し」というハラスメント行為になる可能性があります。
その判断は、より詳細に事実を調査し、場合によっては第三者からの聞き取りも行って、正確に行うことが大事です。

ハラスメント相談を広く受け付ける


最近、ハラスメントとは必ずしもいえないことも「ハラスメントを受けた」と主張する人が増えているという悩みがある一方、ハラスメントではないと判断していたが、後で事実を詳細に知るに及んでハラスメントを見逃していたという例もあります。
会社には必ずハラスメント相談窓口を設置し、セクハラ、パワハラ、マタハラその他のハラスメントに関する相談を広く受け付け、きちんと調査・確認して対処することが大事です。
仮にハラスメントはいえない案件でも、そこにはさまざまな労務管理上の問題点が含まれており、それを企業経営に生かしていくスタンスで臨んでください。


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