労使トラブル110番
年次有給休暇の基準日繰り下げに伴う措置
Q
弊社はいままで年次有給休暇を3月1日を基準日に付与していました。
入社年度に10日付与(ただし、9月1日以降入社の者は初年度5日)し、翌年度は11日付与するという方式です。
この度、会計年度に合わせるため、基準日を4月1日に繰下げることとなりました。
会社は基準日が1ヵ月ずれるだけだから付与日数は変わらないと考えていましたが、
労働組合から「13ヵ月分の日数を比例付与すべきだ」と要求されています。
A
基準日の斉一的取扱いに関する通達
労働基準法第39条においては、入社6ヵ月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、
継続または分割した10労働日、その後継続勤務年数1年ごとに一定の労働日が加算され、20労働日を限度とし付与しなければならないとしています。
この場合、基準日は入社月日によって各人ばらばらとなります。
4月1日に入社した者は、6ヵ月経過した基準日は10月1日、5月1日に入社した者は11月1日となります。
小さな会社の場合は法律どおりに運用しても有給休暇の運用はそれほど煩雑ではありませんが、
会社規模が大きくなると基準日が労働者ごとに異なり運用が難しくなることから、全社一斉に基準日を統一するやり方をとるケースが多くなっています。
この場合の取り扱いについて、厚生労働省は次の通達を出しています(平成6年1月4日基発1号)。
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年次有給休暇について法律通り付与すると基準日が複数となる等から、
その斉一的取扱いや分割付与(初年度において法定の年次有給休暇付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与することをいう。)が問題となるが、
以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。
イ 斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。
ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること(例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年4月1日に11日付与する場合、また、分割付与として、4月1日に入社した者に入社時に5日、法定の基準日である6ヵ月の10月1日に5日付与し、次年度の基準日は本来翌年10月1日であるが、初年度に10日のうち5日分について6ヵ月繰り上げたことから同様に6ヵ月繰り上げ、4月1日に11日付与する場合などが考えられること)。
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法定の基準日より以前に、繰り上げて基準日を設定し、付与する場合は、
法定の付与日数を上回る付与を行わなければならないこと、
また、それを分割して付与する場合も同様であることがこの通達の考え方と言えるでしょう。
基準日を1ヵ月繰り下げる場合はどうするか
貴社の場合はすでに斉一的取扱いを行っていて、かつ、その基準日を1ヵ月繰り下げることになります。
もし繰り下げた期間の1ヵ月間を無視して従前どおりの付与を行うとするならば、
労働条件の不利益変更となります。
前記通達の趣旨からすると、従前の付与日数を下回らないように分割付与するという考え方をとるべきでしょう。
いくら何でもわずか1ヵ月の繰り下げですから、1年分丸ごと繰り上げて付与するのは付与し過ぎといえるでしょう。
したがって、労働組合が主張しているように
「13か月分を付与する」方式をとるのは解決方法の一つと言えます。
もちろん「11日÷13/12ヵ月」というように計算すると必ず小数点以下の端数が出てしまいますので、その場合の端数は切り上げて整数とするべきでしょう。
労働基準法改正による年次有給休暇の強制付与措置
現在国会で議論されている働き方改革法の中で、年次有給休暇を事業主の責任で強制的に付与する措置が法律上の義務とされるようです。
これは年次有給休暇の取得率が日本の場合は特別に低いということから(約50%)、
本人利用分の5日以上の分を差し引いた日数を、事業主の責任で付与させるというものです。
法改正の動向にも注意を向けておく必要があります。
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