労使トラブル110番
「労働者の責に帰すべき事由」による解雇と
解雇予告除外認定
Q
介護施設の夜勤勤務者が、利用者の救急対応が求められているときに、利用者のコール対応をせず空きベッドで熟睡しており、
コールを聞きつけた仮眠中の他の職員が対応することとなったという事件が何回かありました。
その職員は、利用者をベッドに縛り付けていたということもあり、解雇したいと考えています。
解雇予告手当を支払いたくないのですが…。
A
解雇予告制度と解雇予告除外認定制度とは
労働基準法第20条は次のように解雇予告制度について規定しています。
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使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。
前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する(行政官庁の認定のこと…筆者注)
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「但書」に書かれているのが、
「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」、行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受ければ解雇予告及び予告手当の支払いをなくして解雇できる旨の規定です。
では、どういう場合に労働基準監督署長は解雇予告除外を認定するのか、
その解釈例規が通達によって示されています。
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(イ)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合。
(ロ)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。
(ハ)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者が行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。
(二)他の事業場へ転職した場合。
(ホ)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
(へ)出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合。
※(イ)(ロ)については、事業場外で行われた行為であっても会社の名誉、信頼を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものであるときは認定の対象となる。
(昭23.11.11基発1637号、昭31.3.1基発111号)
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なおここに示されているものはあくまでも「例規」で、
これに該当しない場合でも事例ごとに判断されます。
厚生労働省労働基準局の「労働基準法コンメンタール」では、いくつかの参考例を紹介しています。
・自らもタクシー運転手でありながら自己の後輩運転手に酒をすすめ、飲酒運転、人身事故を発生せしめた行為
・会社としては、出勤表打刻の時刻が給料算定の基礎となるので、不正打刻の絶滅を期せんとしてその旨掲示し、全員に周知徹底させており、それを無視し不正打刻に及んだことは偶発的なものではない
・勤務時間中にしばしば喫茶店に入って長時間にわたり勤務を怠り、始末書を徴されてけん責されたにもかかわらず、一向に改めようとしなかった
除外認定はどのような手順で行われるか
使用者は所轄の労働基準監督署長に除外認定申請を行うのですが、
使用者の恣意的判断による濫用の防止の観点から、申請書面だけの審査の審査によることなく、
労使その他の関係者について実地に調査のうえ慎重に決定すべきことが指示されています(昭63.3.14基発150号)。
そして労働基準監督署長の心証により認定事由に該当する事実があると確信した場合に認定され、判断が分からない場合は申請却下の裁定が行われます。
事例にもよりますが、申請から認定までには2週間から長い場合1ヵ月近くかかると言われています。
どういう手続き的流れが必要か
解雇予告除外認定は、原則、懲戒解雇の事由が発生した時点で、解雇の意思表示を労働者に行う前に、
所轄労働基準監督署長に認定の申請を行い、その後、認定が下りた時点で労働者に解雇の意思表示を行うという手順で進める必要があります。
仮に、使用者が除外認定を受けずに、
解雇予告も解雇予告手当の支払もせずに即時解雇した場合は、解雇は有効であっても、
労働基準法20条違反として罰則の対象となり、事業主は6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられますので注意して下さい。