労使トラブル110番
マタハラ行為といえるか?
賃金支払い義務はあるのか?
Q
3月に雇用したパート職員が、妊娠により4月の途中から休暇に入ったのですが、7月半ばに死産となってしまいました。
8月初旬にまた働きたいとの連絡があったのですが、「こちらから(会社から)連絡します」とご本人に言ったまま忘れてしまい連絡を取らなかったところ、「マタハラを受けた」「8月からの給与を補償してほしい」という要望が出されてしまいました。
どう対応したらいいでしょうか?
A
不利益取扱いに該当する可能性
最高裁マタハラ判決(平成26年10月23日)を受けて、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法が改正され、
「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いの禁止」と、
「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」
の2つの規定が区分され、それぞれ厳しく規制されるようになりました。
上記の不利益取扱いには、解雇や雇止めだけでなく、「不利益な自宅待機」「仕事をさせない」なども該当し、また、妊娠等を「理由として」いなくても「契機として」これらの行為がなされれば不利益取扱いであるとみなされます(下例参照)。
たとえ忘れてしまったとしても、妊娠を契機としてなされた行為は不利益取扱いとみなされるでしょう。
もし、被害者が都道府県労働局に是正を求めた場合には、是正の指導・勧告がされ、最悪の場合は企業名の公表という措置も取られますので注意してください。
〔妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの例(厚生労働省Q&Aより)〕
イ 解雇すること
ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
ホ 降格させること
へ 不利益な自宅待機を命ずること
ト 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
チ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
リ 不利益な配置の変更を行うこと
ヌ 仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をする
死産が出産扱いとされる場合
次に賃金支払い義務があるのかどうかという問題です。
また、あるとすればそれはいつを起点とするのかも検討しなければなりません。
労働基準法第65条は産後の休業に関して次のように規定しています。
「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない」(同条第2項)。
医学上、妊娠4ヵ月(85日)以降の死産は出産と扱うとされています。死産となったのが妊娠4ヵ月以降であったとするならば、9月の初旬までは就業させてはならない期間となります。
妊娠4ヵ月に満たない場合は、医師から指示された一定期間のみは現実的に就業できないでしょうが、その後は就業可能な期間です。
支払うべき賃金とは?
上記を検討の上(もし産後休業期間に該当しない場合)、使用者側の責任により出勤させていないと判断される場合は、起算日を明確にし、それ以降の賃金を支払う必要があります。
その際、全額支払ってもかまいませんが、最低で休業手当相当額は支払う義務があります。
労働基準法第26条は、休業手当について、
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならない」
と規定しています。
パートさんは日給制又は時給制の賃金形態が多く、その場合の休業手当の計算式は次のようになります。

<「直近3ヵ月の日給・時間給の合計額」÷「直近3ヵ月間の実労働日数」×60%>