労使トラブル110番
降格に伴う減給の正当性の判断基準とは?
Q
今まで「課長」職だった者を業務の都合で1ランク下の「主任」職に人事異動させる予定でいます。この異動は正当と言えるのでしょうか。その判断基準みたいなものはあるのでしょうか。
A
降格には何種類かの意味がある
降格には、役職や職位を引き下げる降格(昇進の反対)を指す場合と、職能や職務に基づく等級制度における等級を引き下げる降格(昇格の反対)を指す場合があります。また、人事権の行使として行われる降格と、懲戒処分として行われる降格があります。そのそれぞれにおいて正当かどうかが判断されることになります。
ご質問のケースは、人事上の措置として役職・職位を引き下げる降格のようです。
人事権の行使と権利濫用
職務遂行能力やリーダーシップ・コミュニケーション能力など管理職としての適格性の欠如、あるいは役職ポストの廃止などを理由として降格することは、一般に経営上の裁量的判断が尊重され、使用者の人事権に属する問題とされています。就業規則で特に規定されていなくても、この降格は労働契約の内容に当然含まれるものと扱われています。
ただし、役職の変更が、給与減などの処遇の変更を伴う場合は、慎重な判断が求められます。ご質問のケースでも、主任に降格させた結果、給与減を伴うのであれば、それが業務量の減に伴う程度の給与減であればそれほど問題にならないでしょうが、本人の生活レベルの大幅ダウンをもたらすようであれば不利益変更とみなされるでしょう。いずれにしても、よく労働者と相談し、納得を得る努力が必要でしょう。
また、いくら使用者の裁量的判断が尊重されるとはいえ、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利濫用とみなされ無効となる場合があります。裁判例などでは次のような事情が総合的に考慮されているようです。
①使用者における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度
②能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度
③労働者の受ける不利益の性質及びその程度
④当該企業体における昇進・昇格の運用状況
ちょっとしたミスがあったからといって安易に「適性に欠ける」と判断したり、能力の判断基準が不合理、恣意的なものであったりすると、権利濫用とみなされる可能性が高いでしょう。
医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件(東京地裁、平成9.11.18)では、予定表を紛失したことを理由に婦長から平看護婦(当時の職名)へ2ランク降格させ、その結果、役付手当が5万円支給されなくなったという例です。裁判所は、予定表紛失によって病院に具体的な損害は全く発生しておらず、管理職としての能力・適性を否定するほどのことではなく、業務上の必要性もないとして降格は無効と判断しています。
等級制度上の降格の要件
職能資格(等級)制度や職務等級制度上の降格の場合はどうでしょうか。この場合、職能資格制度や職務等級制度上の降格に関する規定を就業規則などできちんと定めておくことが要件となります。各等級の資格基準が定義され、定期的に行われる人事評価における評価項目なども明示され、評価結果として昇格なり降格なりするという制度の規定が必要だということです。そうでなければ恣意的な判断とみなされ、無効となる可能性があります。
裁判例でも、あらかじめ降格基準が従業員に明らかにされていなかった(使用者のみが知る内規であった)ことから降格措置は無効と判断しています(マッキャンエリクソン事件、東京高裁平19.2.22)。
懲戒処分として行う降格
懲戒処分は、刑法と同様、罪刑法定主義(罪と刑は法律で定めなければならない)の考え方が適用されます。就業規則で、降格処分に関する規定を設け、かつ、どういう場合に降格処分となるのか、その理由を規定しなければなりません。通常、「訓戒(警告)→減給→出勤停止→降格→諭旨解雇→懲戒解雇」というような順で懲戒の種類を定め、それぞれの程度に応じた懲戒理由を明記していると思います。
そうした規定もなく、懲戒処分としての降格は行えません。