労使トラブル110番

出向と派遣の違いをどう証明するか


Q
医療法人です。当法人では、関連法人に医師、歯科技工士等を2年程度出向させているのですが、行政官庁から「出向ならばいいのですが、人材派遣、さらにはそこで禁止されている医師等の派遣、また労働者供給事業にあたるようであれば、直ちに解消してください」「この点を管轄の労働基準監督署から確認を得て回答してください」との指導がありました。どのように説明すればいいのでしょうか。


A

出向と派遣との違いは何か


出向も派遣も、雇用している労働者を「他人の指揮命令を受け、他人のために労働に従事させる」という点では違いはありません。何が違うのでしょうか。
出向は、出向元の従業員の地位を保持したまま、出向先の従業員にもなることです。「元」と「先」の両方との二重の雇用関係が生じるということです。従業員への就業規則の適用も、従業員の地位に係る規定、例えば定年、退職金などの規定は出向元の就業規則を適用します。一方、労働時間、休日、休暇など日常的な労働条件にかかわる部分は出向先の就業規則に従います。
これに対して派遣は、派遣元との雇用関係のみで、派遣先との雇用契約が締結されるわけではありません。「労働者を他人に雇用させることを約してするものを含まない」(派遣法2条1号)と法律上明記しているのは、派遣と労働者供給事業とを区別する規定です。行政官庁が派遣法に該当しないかを特に気にしているのは、派遣法において労働者派遣事業を行うことができない禁止業務の一つに「病院等における医療関係の業務」(医師、薬剤師、看護師、栄養士、診療放射線技師、歯科技工士、歯科衛生士等)があることによるものと思われます。

出向命令権の根拠~就業規則等の規定


労働基準監督署からの確認を得るためには、いくつかの根拠となる文書が必要でしょう。第一に、出向命令権の根拠となる規程等についてです。
一般に、配転と違って出向は、労務提供の相手企業が変更されるわけですから、就業規則・労働協約でなるべく具体的に規定しておくべきでしょう。就業規則の付属規程として出向規程を設けるというやり方もあります。そこでは、どういう目的で、どういう場合に、どういう企業に、どれぐらいの期間(原則的な期間)出向させるのかなどを規定し、採用の際にも労働者の同意を得るなどしておいた方がよいと思います。

労働条件の処理に関する定め~出向契約書


第二に、出向契約書です。出向契約書は、通常、出向元と出向先との間で取り交わす基本契約書と、出向元と従業員との間で取り交わす出向契約書とがあります(出向先と従業員との間で取り交わす契約書がある場合もあります)。それらで確認しておくべき事項と留意点を記しておきます。

(1)主な契約事項
① 出向元での従業員としての地位を有したまま、出向先に出向すること及び出向先で従事する業務
② 出向期間(出向期間の延長・短縮がある場合の取り決め。3年または5年以内程度)
③ (出向元への)復職命令に従う義務
④ 出向期間中の取扱い(出向元で休職扱いとすること、出向期間を出向元における在職期間に通算することなど)
⑤ 出向期間中の労働条件
〇賃金の支払いを誰が行うか
〇就業規則の適用関係(出向元の規定を適用する部分と出向先の規定を適用する部分)
〇賃金の不足額(出向元の賃金に達しない場合)の補償に関する事項

(2)就業規則の適用に関する一般的考え方
一般的には、労務提供を前提としない部分については出向元、労務提供を前提とする部分については出向先という考え方をとります。
〇労働契約=出向元
〇賃金=支払担当者(①出向先が支払い、出向元が差額を補償する形態、②出向元が支払い、出向先が自己の負担額を出向元に支払う形態の2つが代表的)
〇労働時間・休憩・休日・有給休暇=出向先
〇安全・衛生=出向先
〇災害補償=出向先
〇解雇=出向元(出向契約を解除し、復帰させたうえで、出向元で解雇する)
〇定年・退職金=出向元

以上の点を踏まえて、労働基準監督署には、就業規則(又は労働協約)、雇用契約書、出向契約書などを持参し、説明してください。

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