労使トラブル110番
建築士、デザイナーなどの働き方と専門業務型裁量労働制
Q
1級建築士事務所です。私たちの働き方は設計やデザインの図面などを書くときもあれば、デザインのイメージを膨らませるために終日雑誌等を眺めているときもあり、どうしても長時間にわたって事務所にいることが多くなりがちです。先日体調不良で退職した従業員に発行した離職証明書について、ハローワークから「離職証明書給与額の欄が、本人が持参してきたタイムカードの時間から推定される残業額を加味した給与額の欄と食い違う。月100時間を超える残業時間の月もあるようだが残業代が未払いになっているのではないか」という連絡がありました。どのように対応したらよいのでしょうか。
A
専門業務型裁量労働制の労使協定届の届出が必要
「業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることは困難なものとして厚生労働省令で定める業務」に就かせたときは、労使協定で定めた時間「労働したものとみなす」という制度のことを専門型裁量労働制といいます(労働基準法第38条の3第1項第1号)。
「厚生労働省令で定める対象業務」とは次の19の業務のことを指します。
①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務、②情報処理システムの分析又は設計の業務、③新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務、④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務、⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務、
前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務(コピーライター、公認会計士、弁護士、建築士の業務など14業務)
貴社のような建築士の業務やデザイナーの業務についても対象となります。
裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。労使協定に定める事項は次の事項です。またその旨を就業規則に規定する必要があります。
①業務の種類及び業務の内容
②1日の所定労働時間
③協定で定める時間(労働したものとみなす時間)
④健康・福祉確保措置及び苦情処理措置
⑤協定の有効期間
裁量労働制と労働時間の算定
裁量労働制においては、使用者の労働時間把握義務は免除されます。もちろん健康確保を図るために適正な労働時間管理を行うという目的の範囲内で労働時間の把握をタイムカード等によって行うべきであるとされています。
裁量労働制における労働時間は、労使協定で定めた「労働したものとみなす時間」となります。みなし労働時間は、時間外労働を含んだものであっても所定労働時間であっても差し支えありません。ただし、法定労働時間を超える「みなし労働時間」を定める場合には、別途36協定の締結・届け出が必要となります。
例えば、月曜から金曜日まで所定労働時間を8時間、「みなし労働時間」を9時間と定めた場合、毎日1時間の時間外労働が発生することになりますので、「就労日数×1時間」の時間外手当(割増率1.25倍)を払うことになります。また、裁量労働制のもとでも、休憩、深夜業、休日に関する法の規定が適用されますので、法で定められた休憩時間を付与すること、深夜労働には深夜割増、法定休日労働には休日割増(所定休日労働は時間外割増)をそれぞれ支払わなければなりません。
では、欠勤した場合の控除、年次有給休暇の際支払う賃金はどのように算定するのでしょうか?「みなし規定」が適用されるのは、労働者が労使協定に定める「対象業務に就かせたとき」ですから、欠勤したときは「みなし規定」は適用されず、所定労働時間に対して支払うべき賃金を控除することになります。同様に、年次有給休暇を取得した場合に支払うべき賃金も、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払えばよいことになります。
ご質問についてですが、もし貴社が専門業務型裁量労働制に関す労使協定を締結し、諸届出を行っていて、「みなし労働時間」の分の割増賃金を支払っているのであれば問題はありません。
しかし、労使協定の締結や諸届出を行っていないとすれば、一刻も早くその手続きを済ませつつ、通常の労働時間制に基づく割増賃金を計算して支払い、離職証明書も訂正する手続きをしなければなりません。また、この場合、月100時間を超える残業があったということから、監督署からの呼び出し、調査も覚悟しておいた方がよいでしょう。