労使トラブル110番
希望退職・退職勧奨による人員削減を行う際の留意点
Q
経営上の理由で60名程度の人員削減をしなければなりません。トラブルとならないように進めていきたいのですが、留意すべき点をサジェスチョンください。
A
整理解雇4要件の考え方をベースにおいた方針をもつ
5名、10名規模の人員削減ならば個別の退職勧奨などで対応できるかと思いますが、60名規模での人員削減を個別の退職勧奨で行おうとすると、その過程で従業員間にさまざまな不安、憶測、議論を招くことが予想され、トラブルリスクは高いと思われます。そうした事態を避けるためには、すでに裁判例で確立された整理解雇4要件の考え方をべースにした方針をきちんと確立して臨むべきと思います。
整理解雇4要件とは
① 客観的に人員整理を行う業務上の必要性があるか。
② 他に整理解雇を回避する可能性はないか、使用者による整理解雇回避の努力がなされたか。
③ 解雇対象者の選定基準に合理性があるか、その基準の適用に妥当性があるか。
④ 解雇手続に関して労働組合などと誠意をもって協議したか、労働者に誠意をもって十分に説明したか。
この「4要件」の考え方をもとに、まずやるべきことは、①経営上人員削減がやむを得ざる事態であること、②この間、経営陣がいかに経費削減、役員報酬の減額など人員削減を回避するための努力を行ってきたか、③削減対象とする部署あるいは人の選定基準などについて、④従業員への説明会を開催し、質疑応答も行い、理解と納得を得る場を設定することです。できれば数回にわたってこうした説明会を開催するようにしたいと思います。
また、裁判例では、「4要件」だけではなく、「退職条件(割増退職金の支払や就職先のあっせんなど)の有無・程度なども重視されていますので、検討した方がいいでしょう。
何から始めるか
従業員説明会を開催した後に、まず希望退職の募集を行うべきでしょう。2回あるいは3回程度、それぞれ時期を区切って募集します。第1回目に応募した方が2回目以降の応募よりより有利な退職条件を設定するのが通常です。
希望退職の募集でどれぐらいの人員削減ができるかによりますが、それで予定人数に満たない場合は、退職勧奨の段階に進みます。退職勧奨とは、使用者の側から退職を勧奨する(いわゆる肩たたき)ことで、それ自身なんらの法的規制もありません。ただ気を付ける必要があるのは、「退職強要」とみなされる行為を厳に戒めることです。たとえば、解雇理由がないにもかかわらず「退職に応じなければ解雇になる」などというのは強迫とみなされ、たとえ退職に応じたとしても後で取消しの対象となります。また、相手が拒否しているにもかかわらず10回も執拗に勧奨したり、1回あたり5時間も缶詰状態に置くというのも退職強要とみなされます。
以上の取り組みを経ても目標人数に足りない場合に限り整理解雇の手続きに入るということになろうかと思います。
人選基準その他留意すべき点
(1)人員選定基準
人員削減に臨む際、整理解雇4要件の3番目の要件である「人選の基準」における合理性に留意する必要があります。一般に未来性があり、活力ある方が、希望退職等に応じる傾向にあるといわれています。会社経営に必要な人材から辞めていくということです。会社に引き留めるべき人材をあらかじめ決めておくべきでしょう。
また、年齢構成上も、20代・30代は再就職の可能性が高い世代であること、50代後半から60代前半は退職(再雇用終了)まであと数年ということから比較的退職に踏み切りやすい世代である一方、40代から50代前半は再就職に不利な世代であることも考慮しなければなりません。
以上の点をよく踏まえて人選の基準を定めてください。具体的には年齢による基準、人事評価上の基準などがベースになると思います。
(2)退職勧奨の進め方
退職勧奨においては、前述の「退職強要」とならないようにすることと同時に、具体的な手順を定めて臨んでください。1回の話し合いは30分からせいぜい1時間程度にとどめること、話す人数は2、3名程度に絞り、主対話者と書記の任務を確認すること、再度の話し合いを行う場合は1週間から10日程度の期間を開けること、退職を合意した場合の合意書の作成などをきちんと確認してください。
人員削減とは、「残るも地獄(会社の危機がある)、去るも地獄(就職先に不安)」という大変な作業です。それを踏まえた繰り返しの話し合いがカギとなります。