労使トラブル110番

団体交渉に応じる義務のある使用者側当事者の範囲


Q
私たちの団体は、営業所ごとに独立した法人を束ねる集合体で、各営業所が販売する商材の仕入れ等を行っています。営業所の労働者は、営業所ごとに採用され、営業所との間で雇用契約を結んでいます。ところが労働組合は、団体全体の地域で組織されています。各営業所での団体交渉ももちろん行われているのですが、弊団体との中央交渉も行われてきたという経過があります。ところが、弊団体と労働組合との交渉は形だけのものになりがちです。それでも団体交渉に応じなければ不当労働行為になってしまうのでしょうか?
A

労働協約上の権利義務の主体となりうるか


労働組合法上、使用者とは「労働協約上の権利義務の主体となりうる者」のことを指し、個々の使用者(個人事業主または法人)が団体交渉の当事者となることは当然です。では、使用者団体の場合どうなるのでしょうか。使用者団体が団体交渉の当事者となるためには、その団体構成員のために統一的に団体交渉し、かつ、労働協約を締結しうるものとして結成されていることを要します。具体的にはその趣旨が定款(規約)に明記されていることを要します。
法文上、使用者団体は、労働組合の交渉権限者であること(労組法6条)、労働協約の当事者となりうること(同14条)がうたわれ、当然、交渉が行き詰まったときの労働争議やあっせん等の調整の対象ともなります(労働関係調整法)。しかし、不当労働行為に関する規定(労組法7条)では、使用者団体は不当労働行為の主体、救済申立ての対象となっていません。ここには、労働契約上の使用者と、団体交渉当事者としての使用者との複雑な問題が横たわっています。

労組法上の使用者とは


労組法上の使用者とは、団体交渉を中心とした集団的労使関係の当事者としての使用者のことですから、労働契約の当事者としての雇用主とは異なります。しかし、集団的労使関係は、労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中として展開されるものですから、個別の労働契約関係が基盤でとして成り立つものです。
このあたりの関係について、朝日放送事件判決がリーディングケースとされています。朝日放送事件とは、テレビ局における番組制作において、請負会社の技術者等を受け入れ、テレビ局のディレクターの指揮監督のもとに作業が進行するという実態のもと、技術者の組合がテレビ局に労働条件の改善を求め団体交渉を要求したにもかかわらず、テレビ局がそれを拒否した事件です。構内請負業務において、請負業者が賃金などの基本的労働条件を決め、発注企業が就労のスケジュール・場所・環境などの基本的諸条件を支配決定しているという、頻繁に生じるケースです。最高裁は、労組法上の使用者の範囲に関して次のように判断基準を示しました(平7.2.28)。
「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の『使用者』に当たる」

使用者性が問題となる類型


朝日放送事件にみられる、いわゆる「部分的使用者性」については、前記最高裁判決を踏まえたものに判断されるようになってきています。使用者性が判断された具体例を上げておきます。
(1)親子会社における親会社…親会社の支配力の強弱によってさまざまなケースがある
(2)労働契約関係に近似する例…旅行代理店の派遣添乗業務、バスガイドの派遣業務
(3)労働契約関係と隣接する関係…近い未来または近い過去に労働契約関係が予定またはあったとき
(4)企業の譲渡・合併等によって労働契約関係が承継された場合

相談のケースの場合


上記の判断基準からみて、まず貴団体の定款・規約が、個々の法人との関係でどのようなものになっているのかを検討する必要があります。
また、定款等の定めにかかわらず、個々の法人に雇用されている労働者の労働条件に関して、どのように支配、影響を及ぼしているのかという実態が問われます
さらに、過去、団体交渉を繰り返してきたという事実を鑑みると、一方的な打切りは不当労働行為との訴えが起こされる危険もあると思います。もし実態のない交渉となっているというのであれば、よく労働組合と話し合い、実のある交渉にするための方策を検討してください。

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