労使トラブル110番
高齢者のパート雇用における年齢上限・定年の設定
Q
飲食店を経営しています。
最近人手不足ということで、65歳を超えた高齢者のパート雇用が増えています。
当初70歳を雇用の年齢上限としていましたが、すでに70歳を超えて雇用し続けている方が生まれており、このままだと労働契約法第18条の規定によりいつまでも雇い続けなければならなくなるのではないかと不安です。
どのように対応したらよいでしょうか。
A
1年余後に迫った労働契約法第18条による「無期転換ルール」
労働契約法第18条では、下記のように、「期間の定めのある」労働契約が「期間の定めのない」労働契約に転換する制度を規定しています。
同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。
この条文は、平成25年4月以降の有期労働契約から適用されますので、5年を超える日である平成30年4月以降に問題になります。
この「無期転換ルール」の導入により、有期契約労働者が無期転換申込み権を行使すれば、使用者は自動的にそれを「承諾したもの」とみなされるわけです。
ご質問のケースでも、何も対応しなければ、極端にいえば“死ぬまで雇い続けなければならない”ということになりかねないということです。
適用除外を定めた有期雇用特別措置法とは?
一方、平成26年11月28日に「有期雇用特別措置法」が公布されました。この法律は、以下の2つの者に関しては無期転換ルールの特例が適用されることになります。
①専門的知識等を有する有期雇用労働者(高度専門職)。具体的には、「博士の学位を有する者」、医師・弁護士・税理士・薬剤師などの国家資格者、システムエンジニア、デザイナー等です。
②定年に達した後引き続き雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)
この特例の適用を受けようとする事業主は、都道府県労働局に、「雇用管理に関する措置についての計画」を作成・提出し、認定を受けるという手続きが必要です。手続の詳細は厚生労働省のホームページより、「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」を検索してください。
【定年の定めを就業規則で規定するなどの対策が必要
しかし、上記の高齢者雇用に関する特例措置は、あくまでも定年後の再雇用者に限られた措置となっています。ご質問のケースは、高齢者をパート・有期雇用として雇用した場合のことで、この特例措置には該当しません。
もし仮に雇用の上限を75歳までとしたいとお考えならば、次の対策を打つ必要があります。
(1)5年経過しないうちに75歳となる方を雇用する場合。あらかじめ雇用契約書に、「契約更新は75歳までとし、満75歳の誕生日の前日に雇用は終了する」などと明記して、契約締結します。
(2)75歳となるまでに5年以上の期間がある方を雇用する場合。この場合は、雇用契約書よりも法律が優先しますから、労働契約法第18条の適用対象となり、無期転換ルールの適用を受けることになります。ですから、この方に適用される就業規則(パート就業規則)で、「無期雇用となったパート従業員の定年は75歳とし、満75歳の誕生日の前日をもって定年退職とする」などと規定しなければなりません。
人手不足が今後ますます深刻となる一方、年金の目減りや医療費等の負担が増えてきているもとで、高齢者自身も働かなければ生活できないという状況もありますので、ご質問のようなケースが今後増えてくると予想されます。
念のため、就業規則の規定例を紹介しておきます。
(雇用契約の期間)
第●●条 会社は、雇用契約の締結に当たって期間の定めをする場合には、1年の範囲内で各人別に契約期間ならびに更新の上限等を決定し、雇用契約書で示すものとします。
2 前項の定めにかかわらず、契約更新の上限は満75歳とし、また、期間の定めのない雇用契約に転換した場合の定年は満75歳とします。いずれの場合も、満75歳の誕生日の前日をもって退職とします。