労使トラブル110番

限りなくブラックな犯罪の疑いのある従業員にどう対応する?


Q
弊社のアルバイト従業員が、更衣室で他の従業員の衣服からお金を盗んでいるのではないかという訴えが複数の従業員からありました。
それは、そのアルバイト従業員が一人きりで更衣室にいるときに金銭が紛失しているというものです。
盗られたとされる金額は数千円から2万円程度です。
決定的証拠があるわけではありません。どのように対応したらいいでしょうか?



A

警察に届け出るか、社内調査にとどめるか

 
被害を主張されている方たちが警察に被害届を出して、警察による調査を要望している場合は司直の調査に委ねるというのも一つの考え方です。
被害を主張されている方たちがそこまでやる程の意思はなく、あくまでも会社内での調査と再発防止を望まれている場合もあります。まずその判断をしてください。
社内調査で対応する場合、いくつか留意すべきことがあります。

将棋ソフト不正疑惑と「疑わしきは罰せず」

 
最近似たような事件が将棋界でも起きています。
三浦九段が対局中に将棋ソフトを不正に使っているのでないかという疑惑をもたれ、年内出場停止処分とされている事件です。
ご承知のように将棋ソフトはかなり高度なものとなってきて、プロ棋士たちも相次いで将棋ソフトに負けているという状況です。
三浦九段が一局ごとに別室に籠っていたのは将棋ソフトを使用していたのではないかという疑惑をもたれているのです。  

棋士たちは「徹底的調査」を要望し、三浦九段は「濡れ衣だ」と反論、なかなか泥試合の様相を呈しています。
そうした中、羽生善治三冠が、徹底した調査を要望しつつも「疑わしきは罰せずが大原則だ」という立場を表明して話題になっています。
「疑わしきは罰せず」とは刑事裁判の原則で、「疑わしきは被告人の利益に」とも言います。  

ご相談のケースも、犯罪行為を推測されるにしても証拠がない以上、訴えが出されたことを理由に懲戒等の不利益な処分をすることはできません。

調査のための自宅待機命令

 
社内調査をするために本人に自宅待機を命令する場合があります。
自宅待機命令には2種類あります。1つは、懲戒的性質を有さない、一種の職務命令としての自宅待機です。
この場合は当然のことながら賃金支払義務があります。

1つは、実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の自宅待機です。
就労させると不正再発や証拠隠滅のおそれがあるような場合にとる緊急かつ合理的な理由がある場合にとる措置です。この場合は賃金支払義務は免れます。  

ご相談のケースの場合、関係者からの聞き取り等をやるうえで、本人を自宅待機させた方が調査しやすいという事情がある一方、証拠として確定できそうもない事情もあるわけですから、賃金を支払っての職務命令としての自宅待機措置をとるべきでしょう。

再発防止のために

 
被害を申し立てている方たちが一番望まれていることは、再発防止、安心して業務ができる環境を作ってほしいということのようです。具体的に検討すべき事項を列挙しておきます。

(1)徹底した調査  
まずなぜ本人が犯人とみんなが確信したのか、事実関係を克明に聞き取り、聞き取った内容に基づき本人からもきちんと弁明させ、疑いがないようにしなければなりません。そして、弁明に疑いが残らないように究明し尽すことです。

(2)物理的防止措置の検討  
更衣室での出来事ですから、個人ロッカーに鍵を付けるとか、監視カメラを設置するなど、物理的に再発を防止する措置をとります。

(3)配置転換等の検討  
調査の結果、疑惑が残り、本人と他の従業員との信頼関係を作ることが困難であると判断した場合は、配置転換等の措置も検討します。

ブラック従業員の可能性も再確認する

 
もし疑われた従業員がいわゆるブラック従業員であった場合、単にこの事件だけでなく、業務上さまざまな問題点がある可能性があります。
改めて、経歴詐称の有無、住民票記載事項証明書の提出、身元保証人の確認など提出すべき書類が提出されているのかどうかの確認をすべきでしょう。  

また、業務命令違反がないのかどうか、日常的な労務管理上の体制も含めた再検討を行った方がいいかもしれません。

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