労使トラブル110番
企業外の非行行為に対して懲戒処分が及ぶ範囲
Q
会社の管理職の立場にある者が、スーパーで万引き行為を行ったことが同店より通報されました。
懲戒解雇処分とすべきと考えていますがどうでしょうか?
A
懲戒処分は企業秩序を維持する範囲内で有する権限
就業規則で定める懲戒規定の意味は、企業が事業活動を円滑に展開するために必要な範囲で、企業秩序を維持する権限として存在するものです。
したがって、企業の施設外で就業時間外に行われた従業員の私生活上の非行行為は、企業秩序維持とは直接関係のないことであり、原則として懲戒できません。
多くの会社の就業規則では、懲戒事由の1つに、「刑法に触れる犯罪行為を行ったとき」というような規定があります。
会社内で暴行など「刑法に触れる行為」を行った場合はもちろん懲戒処分対象となりますが、企業外の非行行為については、国家(警察など)とその行為者との間で処理され刑事罰等を受けることになるのであり、会社と従業員との関係では企業秩序は何ら乱されておらず懲戒処分の対象とはならないのです。
横浜ゴム事件という最高裁判決(昭和45.7.28)を紹介します。

○午後11時20分ころに他人の居宅に故なく入り込み(酩酊状態で風呂の扉を開けたところを住人に誰何され逃走し、警察に捕まった)住居侵入罪として処罰された従業員を会社が懲戒解雇した。
○最高裁は、
①私生活の範囲内で行われたものであること、
②罰金が2,500円程度にとどまったこと、
③職務上の地位も工員という指導的なものでないことから、
「会社の体面を著しく汚した」との懲戒解雇事由に当たらないとし、懲戒解雇を無効と判断した。
私生活上の行為であっても懲戒できる場合とは
しかし、従業員の私生活上の非行行為であっても、懲戒の対象となる場合があります。
事業活動の遂行に直接関連している場合や企業の社会的評価を低下・毀損させた場合です。
こうしたときは企業には、従業員を懲戒し、企業秩序を回復させる必要があるからです。
裁判で問われた具体的事例をあげてみます。
≪飲酒運転が懲戒処分の対象となるケース≫
●バス運転手が企業外で酒酔い運転及び暴行によって罰金刑に処せられたことを理由として懲戒解雇したことが適法とされた(千葉中央バス事件、千葉地裁昭和51.7.15)。このケースの場合、一般のバス乗客から会社への非難が寄せられたこと、新聞紙上に酒酔い運転手として掲載されたことから「会社の社会的評価の低下、毀損をもたらした」と判断された。
●後輩のタクシー運転手に飲酒をすすめた上で自動車を運転させ、人身事故を誘発させた先輩タクシー運転手を、就業規則上の懲戒規定を準用して懲戒解雇したことを適法とした(笹谷タクシー事件、最高裁昭和53.11.30)。このケースでは、後輩運転手を指導すべき立場にある先輩運転手が後輩運転手に飲酒を勧めたのは酒酔い運転行為者と同等というべきであることから「会社の社会的評価を低下・毀損するおそれがある」と判断された。
≪痴漢行為が懲戒処分の対象となるケース≫
●鉄道会社の従業員が電車内で痴漢行為を行った場合
≪金融機関の職員による窃盗、詐欺行為等≫
●金融機関の職員については、たとえ少額であっても金銭上の犯罪行為があったときは厳しく判断されます。
会社の社会的評価の低下・毀損と判断される基準
企業外の非行行為が「会社の社会的評価を低下・毀損させた」と評価される基準について、日本鋼管事件における最高裁(昭和49.3.15)判決は次のように指摘しています。

従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
上記のような評価基準からご相談のケースを判断してください。
その際、スーパー側がどのような解決を望んでいるのか、従業員の管理職という立場などを考慮しなければなりません。
処分内容も、懲戒解雇以外の軽い処分で済ませる、自主的退職扱いとするなど選択肢はいくつかあると思います。