労使トラブル110番
新卒採用者と管理職として中途採用した者との普通解雇の要件の違い
Q
50代前半の総務部長として中途採用した者がいます。
比較的大きな会社で人事部長を務めた経歴があり、その経歴を見込んで採用したのですが、採用して半年間の様子を見るとあまり知識もなく、部下とのコミュニケーション能力に欠けており解雇したいと考えていますが、可能でしょうか。
A
能力不足による解雇の判断要素
労働契約法第16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。
「客観的合理的理由」の一類型として、業務上不適格、勤務成績不良、能力の不足・欠陥等の労働者の職務不適格があげられます。
ただし、能力不足を理由に普通解雇が自由にできるという単純なことではありません。
能力不足が解雇しなければならないほど重大な程度のものか、使用者側が労働者を指導し努力反省の機会を与えたのにもかかわらず改善可能性が見込めないのかどうか、職場の規律維持に重大な影響を与えたり、業務遂行に重大な支障を与えているのかどうか、使用者側に落ち度はないのかなどを総合考慮して判断されます。
とくにこれらの要素の中で裁判例で重視されるのは、
①労働者の改善可能性、
②労働者の地位や業務特定の有無、
③使用者が行った改善措置や配置転換措置等が考慮されます。
特定の業務について能力不足や勤務成績不良であっても、それのみでは解雇の客観的合理的理由・社会通念上の相当性は認められないことが多く、まず教育指導等が適切に行われることにより改善の余地を慎重に判断すべきとされています。
業務がそれほど明確に特定されていない場合(新卒採用者など)の解雇は一般的に困難になる傾向があります。
例えば、事務で採用された者が、PC操作能力が不十分だとしても、PC以外の事務処理が可能であるとするなら解雇は認められないとされたケースもあります。
逆にいえば、指導・注意等を行っても改善がみられなかったり、反抗的態度を取る、あるいは配置転換等を試してみても能力不足が明らかであるなどの場合は、解雇が認められやすいともいえます。
管理職として中途採用した場合
一方、ご質問のケースのような中途採用等で、とくに能力を見込まれ、業務等を特定されて雇用された場合は、該当する特定業務を履行できる能力があることが前提とされているため、その能力不足が明らかとなった場合、比較的緩く解雇の客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められやすいといえます。
持田製薬事件(東京地裁昭和62.8.24)をその一つの例として紹介します。
【事件の概要】
会社は、昭和50年代後半以降の医薬品業界における競争に打ち勝つため、マーケティング部を新設し、人材センターの紹介によりXをマーケティング部長として中途採用した。
しかし、Xの勤務状況はその責務に応えるものではないとして会社はXを解雇した。
【判決概要】
○Xは、マーケティング部部長という職務上の地位を特定し、その地位に相応した能力を発揮することを期待されて、雇用契約を締結したことは明らかで、それは単に期待にとどまるものではなく、契約の内容となっていたと解せられる。
○Xは、営業部門に実施させるためのマーケティング・プランを策定すること、特に薬粧品の販売方法等に具体的な提言をすることが期待されていたにも係らず、執務開始後7カ月になっても、そのような提言を全く行っていないし、そのための努力をした形跡もないのは、雇用契約の趣旨に従った履行をしていないといえる。
○Xの態度は、雇用の継続を会社に強いることができない「業務上の事由がある場合」(就業規則第55条第5号)に該当すると解するのが相当である。
○会社は、Xを下位の職位に配置換えすれば雇用の継続が可能であるかまで検討しなければならないものではない。
地位特定者と労働契約を締結する際のポイント
上記判決では、
①マーケティング部長という地位が特定されて雇用されていること、
②その職務内容が明確であること、
③その職務に求められる成果の数値や内容も明確にされていることがポイントになっています。
地位を特定した者を採用する場合には、きちんと労働契約書を作成し、一般労働者に適用される就業規則の適用除外である旨を明確にすることが肝要です。