労使トラブル110番
無期雇用パートの発生と65歳までの雇用義務付け
Q
弊社の就業規則では、正職員については60歳を定年とし、原則として希望する者は65歳まで継続雇用するとしていますが、パート職員については有期契約を更新している状態で、60歳以降の雇用継続や位置付けがあいまいとなっています。
労働組合から「パートも正職員の継続雇用制度の対象とせよ」と要求されていますが、どのように対応したらよいでしょうか。
A
有期雇用者の無期雇用転換申し込み権
労働契約法18条は、期間を定めて雇用している者(有期雇用者)について、平成25年4月以降に契約を締結もしくは更新した場合で、契約更新し続けてその契約が5年を超えるものとなったときは、労働者に無期雇用への転換申し込み権が発生し、労働者がその権利を行使した場合、使用者はその申し込みを承諾したものとみなす、と定めています。
この条文により、「5年を超える」とき=平成30年4月以降、パート労働者には有期雇用パートと無期雇用パートの2種類が生まれることになります。
有期雇用パートは、まだ契約更新期間が5年を超えていない者または無期雇用転換申し込み権を行使していない者です。
無期雇用パートは、契約更新期間が5年を超えて無期転換申し込み権を行使した者です。
パート労働者がいる企業は、この問題への対応をいまから決めておかなければ、ご質問のような混乱が生まれる可能性があります。
高年齢者雇用安定法の規制
一方、高年齢者雇用安定法9条1項は次のように規定しています。
定年(65歳未満の者に限る)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引き上げ
二 継続雇用制度の導入
三 当該定年の定めの廃止
この条文は、正職員であるか非正規職員であるかを問わず適用され、パート労働者も当然対象となります。
しかし、同じパート労働者でも有期雇用パートには適用されません。
有期雇用とは、そもそも期間の定めのある雇用契約ですから、「定年の定め」を置く対象とはならず、引き続き契約更新し続けるか、契約更新しない(雇止め)かの選択となります。
問題は期間の定めのない無期雇用パートです。
通常、無期雇用に転化したパートに対して「定年の定め」を置くことが多いと思われます。
その場合は、「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」いずれかの措置を講じなければならないということです。
パート就業規則の見直しが必要
従来多くの会社のパート就業規則では、「パート労働者は半年単位(または1年単位など)の有期雇用契約とする」「契約更新の判断基準は次のとおりとする」というような規定となっていました。
しかし、今日においては、労働契約法18条と高年齢者雇用安定法9条を踏まえた見直しが必要です。
見直しの仕方は現行パート就業規則を見直して、無期雇用パートの条文を付け加えるやり方でも、あらたに無期雇用パート向けの就業規則を作るやり方でも構いません。
その際気を付けなければならないのは、60歳以降の労働条件をどのように設定するのか、正職員を対象とする継続雇用制度の労働条件との関係(正職員の継続雇用制度と同じ枠組み、労働条件とするのか、それとも違った枠組み、条件とするのか)をどうするのかです。
労働契約法20条は「期間の定めがある」という理由による労働条件の差別を禁止しており、5月13日の東京地裁判決は同じトラック運転手同士で正職員と定年後再雇用者との間での賃金差別は労働契約法違反であると判じました。
また、改正パート労働法8条は、責任や職務内容が同じ場合、正職員とパートとの間での労働条件の差別的取扱いを禁じています。
正職員の継続雇用者と無期雇用パート職員の継続雇用者との間で、仕事の内容や勤務日数、責任の程度などが同一であるとするならば、労働組合の要求は正当なものとみなされる可能性が大きくなります。
今後の経営にとって、定年後の高年齢者をどのように位置付け、どういう労働条件で働いてもらうのか、よく検討することが大事です。