労使トラブル110番
体臭の強い従業員にどう対応する?
Q
弊社の従業員の中に体臭の強い者がおり、周りの社員、とくに女子社員から苦情が出されています。
会社としてどのように対応すべきでしょうか?留意点も含めて教えてください。
A
身だしなみの問題の場合
体臭の強さが、いわゆる身だしなみの問題なのか、それとも本人の体質や病気が原因なのかによって対応が違ってきます。
まず身だしなみの問題の場合について考えてみます。
身だしなみの問題とは、たとえばお風呂に入る習慣があまりなく一週間以上入っていないとか、あまり家に帰らないような不規則なだらしない生活をしていることによって生まれる体臭です。
とくに飲食店などの客商売では、お客様が不快感を持たれて二度と来店しない、クレームが出るなど経営にも直結します。こうした場合は本人に対する教育・指導をきちんと行い、何が問題なのかを理解させ、改善させるための努力をする必要があります。
そうした使用者による努力をせずに、いきなり解雇しようとすると無効となる可能性が高いので注意してください。
また就業規則の服務規律に関する規定を見直すことも重要です。
裁判例では、身だしなみに関する服務規律は、
①事業遂行上の必要性があること(たとえば客商売であれば客商売なりの身だしなみに関する規定であること)、
②内容上も労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力が認められる(タクシードライバーの口ひげについて手入れされたものまで禁止するのは認められないという裁判例があります)とされています。
こうした点に留意しながら、就業規則の規定をなるべく具体的なものにすることが大事です。
「身だしなみに注意する」というような抽象的な規定だと、解釈の余地が大きいため、効力に欠けてしまいかねません。
体質や病気が原因の場合
一方、体臭が本人の体質や病気が原因の場合は、注意深く対応しなければなりません。
「におい」は人それぞれによって感じ方、受け取り方が違い、それを行き過ぎた形で一概に改善指導や懲戒処分などを行うと、「パワハラ」「セクハラ」として訴えられる可能性があります。
人事院規則では、「体臭がきついからといって、部下をついたてで仕切っている」などの措置は、「隔離・仲間外し・無視」というパワハラ類型とされています。
たとえば「わきが(腋臭症)」が体臭の原因である場合、その程度にもよりますが手術によって改善されるようです。
接客業の場合、業務の性質上、それを取り除かなければ仕事の妨げとなる可能性がありますので、本人とよく話し合って解決することになります。
業務命令権の限界
体質改善や病気治療のために一定の医学的治療や手術を行うかどうかは本人が選択することですから、会社が強制することまではできません。
では、業務の必要性から、使用者が「体臭が改善されるまで出勤停止せよ」と命じることができるでしょうか。
使用者には、その労働者に仕事をさせることが不適当と認められる場合には、「業務命令」により出勤停止を命じる権利があります。
しかし、業務上どうしても出勤停止せざるを得ないほどの事情がない場合(たとえば他に転換する職種があるなど)は、その命令は無効となる可能性が大きいでしょう。
また、採用時にあらかじめ「わきが」である旨を申告されていて、それを承知の上で採用したとするなら、そうした命令に対して本人は退職を強要されていると受け止めるでしょうからトラブルに発展する可能性が大きいといえます。
もちろん使用者の出勤停止命令に対して、労働者が「働かせてほしい」と要求する権利(就労請求権)はないとされています。
その代り、「業務命令」による出勤停止は、使用者の都合による休業ですから、その間の賃金を支払う義務があることに留意しなければなりません。